「なんか気持ち悪いな」

 目覚めた時、体に違和感を覚えたのは八月の一週目だっただろうか。

 いつもの自分じゃない。
 背中あたりだろうか? 肌がかゆい。いや、かゆいというのとはまた違って――。
 今まで経験したことない不快感。
 水分が足りない感じというのだろうか?

 パジャマをめくり上げ、部屋の全身鏡に背中を映すと。

「何これ……」

 背中の所々に見える、青い斑点。
 直径1センチにも満たないが、数センチおきに斑点が現れている。
 決してあざや、かさぶたなどではない。

 蘇る過去の記憶。

 それは紛れもない。

 人間と恋をした一族の行く末。

「これが、人魚のうろこ……!?」

 全身がざわざわと震える。

 写真でかつて見た、人間と恋をした一族の肌。
 醜いうろこで覆われた、青黒い肌。

 その数歩手前であることを示すかのような青い斑点が、鏡の中の私の背中に生えている。

「いや……っ」

 思わず目をそらした。
 でも気になって、恐る恐る指を背中に回し、ちょんと触れてみる。
 その瞬間、ぞぞぞぞ、鳥肌が立った。

「本当に、うろこじゃん」

 慌ててパジャマを元通りに着て、布団に潜り込む。

 恋をすると、人魚になる――魚住家の言い伝えに嘘はないんだ。

「あれ、でも……」

 何かが引っかかる。

「言い伝えじゃ、人間と『両思い』になった者だけが人魚になるんだよね……?」

 私は日野陸斗に恋をした。
 まだ会って間もないけれど。

 それはむろんこちらの片思いであるとなんとなく思っていた。

 だけど。

「これって……日野さんと両思いになってるってことなの?」

 そうでなければ、私の体が人魚化するはずはない。

――嬉しい……。

 素直にそう思う自分がいる。
 きゅーっと胸が痛くなる。

 誰かに愛されること。
 自分が好きだと思っている人に愛されること。
 それがこんなにも幸福感で胸をいっぱいにしてくれる出来事だなんて。

 気づけば布団の中でほろほろと涙を流していた。


 嬉しい。


 だけど、とてつもなく怖い。


 今の私は、矛盾だらけで、苦しすぎる。


 どうしたらいいんだろう。