”僕の孤独”。

 日野陸斗が口にした「孤独」は、そして流した一筋の涙は、私たちを結びつける強力な糸となった。

「私も、同じことを考えてました」

 ぐっと動揺する心を抑えて、夕日ただ一点を見つめる。鴎の鳴き声も、ひぐらしの鳴き声も、今はただ映画のワンシーンのBGMのように聞こえる。

「自分の小ささに気がつけるから、この場所が好きなんです」

 彼が「えっ」と意表を突かれた声を出したのにつられて、彼を見やる。

「……自分の小ささ、か。本当にその通りだ」

 最後の方はくすっと小さく笑いながら、彼は天を仰いだ。

「まさか年下の女の子にそんなこと教えてもらうなんて」
「……バカにしてました?」
「べ、別にそういうわけじゃないけど、」
「失礼だなー」

 自然とお互いに微笑み、目と目を合わせていたのは、それが初めてだったのではないか。
 誰かと心を通じ合う最初の瞬間が、こんなにきれいな風景の中で訪れるなんて、なんと私は幸せ者なんだろう。
 家に帰ってからそんな風にひとりにやけたのだった。


***


 私は、人生で初めての恋をしている――。

 そう認めてからというもの、世界は変わり始めた。
 太陽は以前よりも強く輝くようになった。
 海の青と空の青が以前より調和するようになった。
 風は優しく穏やかに地上を撫でるようになり、呼応して木々も歌うように枝を揺らすようになった。
 狭いコミュニティの住民もずいぶん親切になったように思う。

 こんなおとぎ話みたいなことを語ると、脳内お花畑の少女だと思われそうだが、本当に世界が輝きだしたのだ。
 それまでの孤独さはどこかへ消え去り、私はすっかり「世界」の一員になれた。

 恋ができる者とできない者。
 その二項対立の壁に阻まれていた私の視野は途端に開けた。

――なんだか、生きている気がする。

 言葉にすると奇怪だけれど、生を実感できたのは生まれて初めてだった。
 魚住ちかげは、孤独ではない。
 世界は生きるに値する場所なのだ。

 そんな喜びを噛みしめていられたのも、束の間だった。

***