「うす」
「おす」
「マルボロ赤」
「はいいつものね」


 出逢ってから、決まっておっぱじまるやりとりはこうだった。

 ころり転がる、目星のものとは程遠い。いちごミルクは甘いから嫌だと伝えたら、他にはキンカン喉飴しかないと言われた。全く、1か0しかない。

 聞かれることに答えるだけだと削がれてばかりだ。何かを渡し、何かを手に入れる。いつだって物々交換であれば、均等でいざこざも派閥も生じない。私が赤だと言う。アオが青だと言う。人間が人間と上手く付き合っていく上で必要なのは、与えすぎないことであったり、与えられすぎない事のような気がしている。

 これはアオと知り合って得た、教訓である。


「赤のツナギを着たら、あんた特攻隊長みたいになるな」

「ヤンキーみたいって言いたいのか」
「あれ、そう言ったつもりなんだけど」


 引きちぎった雑草を投げる。前に鬱憤が溜まり溜まっていた時に石ころを投げたら手違いで煙草屋のショーケースのガラスにひびがいって、爺じは構わない、と笑っていたけれど何かを投げるのに躊躇している。そもそも石を握って投げると言う行為を、一般の19の女はしないらしい。


「工場たのしい?」

「楽しいなんて思った事ない。工場長はパワハラだし、パートは責任逃れだ。最近そのふたつ、ご機嫌と韓国ドラマにご執心だけど」


 飴のおかげか、糖分が功を奏したのか。

 作業効率が上がって工場長には最近褒められてばかりいる。パートのことも怒鳴らない。二日に一度差し入れを持ってくる。一週間でこうも変わるものかと不思議に思う。でも褒められる時に肩に手を置いてくるのすら煩わしく、見せつけるように肩を払うのにそれすら背を向けて気付かない。なんだか摩訶不思議な毎日だ。




「レッドスターは、死にたいわけ」


 それは藪から棒だった。難しい顔をして、遠く。どこかに焦がれながら、本当はその目に何も映していないことを自分だけが知っている。自分だけが知っていた。

 この、瞬間まで。


「…なんで」
「目がいつも死んでる」
「あのさ、それ曲がりなりにも19の女に言う台詞じゃないからな」
「やっぱり未成年じゃん」


 しまった。はっとして目を剥いてももう遅く、したり顔のアオが頬杖をついてくつくつと笑っている。夏の入口に足を踏み入れてもなお、ブカついたトップスの袖を持て余して。


「…死にたくはない」

「あそ」
「ただ、生きていたくもない」
「はっ。死にたくないのに生きていたくもないなんて、そんなのただのゼータクだね」
「みんながみんなどっかの誰かさんみたく煙草屋の番台で時間潰して一日やり過ごしてるわけじゃないんだよ」

「腑抜けになったら終わりだ。ただの死に損ないになる。だから空っぽになんないようにみんな模索してんじゃないの、意味なんて後付けで」