「な、おれの言った通りだっただろ」

「…工場長、何を血迷ったのか、社員に差し入れって、温泉饅頭。餡子苦手だから遠慮してたらその羊羹。朝から一度も怒られもしなかった、それどころか気色悪いくらい、にっこにこ。あんな姿かれこれもう二年半ぶり」
「それはよかった」


 手持ち無沙汰で、ツナギのポケットに両手を入れたまま爪先でコンクリートを蹴り上げる。取るに足らない小物の石ころが跳んでって、建物の壁に当たって跳ね返る。


「お前なにもの?」

「煙草屋」
「それ昨日聞いた」


 羊羹を脇に置いたアオが相変わらず猫のように寝かせた両腕の上に頭を置いて見てくるから、煙草屋、その枠の中で微睡む不思議な番台代行を、私はとても変だと思った。













 アオ、アオ。空の青。海の青。命の青は、その日以来、毎日番台にいた。


 爺じのぎっくり腰が予想より重症とかで、併せて前に発症した前立腺炎が再発したらしく、入院が延びることになったらしい。これぞ正しく弱り目に祟り目。泣き面に蜂、だ。

 工場の朝は早く、その分終わりが早い。学校がない土曜日に見舞いに行こうと思ったけれど、土日は病院が面会をしていないとかで、平日に学校があるあくまで高校生の私は、ここにいない爺じの一日も早い快気を願う他なかった。

 ところで煙草屋のアオは、私をよくレッドスターと呼ぶ。赤い星。期待の超新星、だと。何度も抜き倒して日に透けると光になる髪色がきらきらして眩しいと、たまに変なことを言う。初夏なのに長袖だし、変なのはいつも変だけど。

 それにしてもアオがアオで、私が赤と言うのだけは、なんだかお笑いコンビみたいで意にそぐわない。