車の奥の方からだ。
幸い後部座席は潰れていないのか、よく目を凝らすとチャイルドシートが見えた。わあわあ、びいびい、はちゃめちゃに泣いている。泣きたいのはこっちだ。いらいらするのにその声にどうしようもなくなって、息を吐いて唇を震わせる。
「……… おい」
「わああああああ、わああああああん」
「 おい」
なあ、とかろうじて伸ばした手でその子のと思しきおもちゃを掴んだ。からからと音が鳴り、その音に反応してその子がやっとこっちを見る。俺今大丈夫だろうか。ふつうにグロいのでは、と思うのに、上半身だけならなんとか普通でいられたようで、懸命にそれを鳴らせばその子が涙を止めてこっちに寄ってきた。凄惨な事故だけど、良かった。この子は、無事らしい。
「………おにーちゃん、大丈夫?」
「…大丈夫。もうすぐたぶん、助けが来るよ」
「いたい?」
「大丈夫」
「ねね、痛いの痛いのとんでけしてあげる」
からから、と音を鳴らされて、気休めの魔法をかけられた。そんなことでこの身体が治るはずもないのに、涙があふれてもう大丈夫な気がしてきた。自分が、生きていた。いた。その姿を、だれか。どうか。
この子だけでも、知っていてくれるだろうか。
「…なあ、わかんなくてもいいから聞いて欲しいんだけど」
「?」
「いつか、大人になって、もし、今日を思い出しても、自分だけは絶対責めんな。お前は、悪くない。死にたいなんて間違っても考えんな。いや、死にたくなってもいい。けど、うん、おれの叶わなかった分だけ、背負って、…くらい、わがまま言ったっていいだろ」
小首を傾げたその子が、わからないなりにおもちゃを振って、それからこくん、と頷いた。もう大丈夫。きっと、何もかも大丈夫だ。
薄れ行く意識のなか、その体を引き寄せる。力無く微笑んで、くしゃりと頭を撫でつけた。
「…張り切って生きてこうぜ」