「いやだ!!!!!!!」
バチィ、と何かが弾ける音がした。落雷によって火花を散らした蛍光灯がショートし、破け、ガラス片の雨が降る。割れた破片を目に浴びたのか息子が獣のように咆哮し、背中に幾つものガラスを生やしながら横に倒れ悶絶する。痙攣しながらのたうって、助けを乞うように手を伸ばされてなりふり構わず逃げ出した。
土砂降りの雨の中を、どれだけ走っただろうか。
全力で走って、ずぶ濡れになって、どんどん失速しながら空を仰ぐ。
「わああああぁっ…」
それから、子どものように泣き叫んだ。
どこにも行けない。何にもなれない。自分でしかいられない。
夜、降り頻る雨のなか。雨が声を掻き消してくれるのをいいことに、私はわんわんと泣き続けた。
「寧々」
翌日。救急病院のロビーでソファに座っていたらその声が自分を呼び止めた。顔を上げ、泣き腫らした目を開く。同じようにどこか憔悴し赤い眼をした伯母さんが、私を見てほっとしたような顔をして、それから泣きそうな顔をして、最後に怒った顔になって一気に私のことを抱きしめた。
「工場長から連絡があったの」
私の怪我は、怪我というには重症で、真逆に利き手をへし折られたせいで完全に機能を停止していた。伯母さんに連絡をつけたのは工場長で、あの後救急病院へ駆け込むことになったのは工場に忘れ物をした工場長が戻った時、更衣室でガラス片を浴びて気絶していた息子を見つけたからだった。
お金が、かかる。医療を受けると言うのは。だから添木でもして三角巾で吊るして、今日は騙し騙し仕事に出るつもりでいた。工場長は頷かなかった。ただ、病院に行けとだけ念押された。
息子と別々の病院に担ぎ込まれることになったのは、工場長の最後の良心だろうか。
仕事を失くすかもしれない。
「辞めていいわよ、あんな所」
「…」
「死に物狂いで探したの。ずっとずっと探してた。でも見つからなくて。やっと見つけたと思ったらこんなこと」