「———製品が届いてない!? いやそんなはずは、確かに一週間前にこちらから発送済みに…はい、はい大変申し訳ありませんすぐに間に合わせます、はい、宜しくお願い致します」
電話を切るなりバン、と物に当たってドラム缶が悲鳴をあげる。肩を揺らした社員一同がそれでも手を休めないのに、納期ファイルを持った工場長は身近にいた社員の椅子を蹴り飛ばした。
「新入り糸口さんのせいで作業が二週間も遅れてま———す!! おい町田開発に発送かけたの誰だ!!」
「工場長、それ辞めた大島さんが…」
「黙って手ぇ動かせよ!!!!!」
贅肉を揺らしながらどこにそんな理不尽を撒き散らす体力を持ち合わせていたのか、怒鳴り散らす暇があれば自分も協力すればいいのに。そんなことを誰も言えるはずもなく、一日中鳴り響くコール音と工場長の怒鳴り声、殺伐とした現場で朝から夜まで泥のように働いた。通常17時までとなる勤務も強制的に残業をつけられて、明るい時間に出勤したはずなのに工場の天窓はやがて黒塗りの夜になった。
雨が窓を叩く音がする。
学校には休むと連絡して、他の社員たちに紛れて21時まで職場にいた。もう他の職員は帰ったらしい。更衣室が混むのを避けたから恐らく私が最後だろう。更衣室の電気を点け、仄暗い部屋にオレンジが煌々と照りつける。
雷が光った。
「ねーねちゃん」
「、ぉま」
声に振り向いた瞬間口を塞がれた。羽交い締めにされ隣のベンチに倒されて、目を剥けば私に馬乗りになりになり血走った目が怒りに震えて爛々と光っている。息子。工場長の息子だ。
「あーあ…やっとだねねちゃん最近めっきり来ても来ても会えないし親父に聞いても頭湧いてんのか上機嫌で話もロクに聞きやしねえ、なんかおかしいと思ったんだよどいつに聞いても浮ついた事しかほざかねえからさだからもうどうにでもなっちまえって納品書? あれ、辞めた大島とかいうババアの代わりに俺が送ったの、ははは、それなのに癇癪起こしてバカじゃねーのクソ親父届くわけねーじゃん俺の職場のデスク宛に送りつけたんだから」
こいつか。
オーガズムにでも達したかのように恍惚と天を仰いだ息子が容赦なく私のツナギを破いた。鬼気迫る表情で襲いかかって来るそいつに抵抗すれば衝動が頰を打つ。血の味。二、三そのまま殴打されてそれでも抗ったら手首を真逆にへし折られ、塞がれた手にあげた悲鳴が消えていく。
「お前が悪いんだろ、な? この俺がせっかく何度も誘ってんのに生意気な態度取りやがってクソガキが、ゴミ、糞虫が。底辺の分際で俺に歯向かおうなんざ一億年はえーんだよ舐めろ、跪け、ごめんなさいって言いながら女になるとこ見せてくれよ」
「い、いやだやめろ… 、はなせ」
「いいから」
いやだ。いやだ。いやだいやだいやだいやだいやだ。