「…おばさん?」
「十五年前事故死した私の母親の姉妹だ」
「…」
「預けられてた。両親が死んで身寄りがないから、その姉夫婦に。子どもがいて、よく出来た子で。史ちゃん。可愛くて芸術肌だ。比べられたくなかった。私のせいで家族が白い目で見られるんじゃないかってずっとびくびくしてた。何の罪もない人達がだ。ちがう、そんなことを考える自分に嫌気がさして家を出た」
もう三年が経った。諦めてくれたと思ってた。
でも、本当はずっと、探されていたとしたら。
「…和解出来るチャンスじゃん?」
顔を上げる。そこで今日、はじめてアオの顔を見たのに、アオはやっぱりいつもと同じ長袖を持て余してのんびりガラケーを閉じるところだった。
「…それ、本気のアドバイス」
「知らねーよ。知らねーけどようはあんた、正真正銘の不良少女で、家飛び出して来たんだろ。自分は不憫な目にあったから幸せを目の当たりにするのが辛かったんだよ、そんで自分がその中の一員になってることが怖くなった。生き残った自分だけが幸せになっていいのか、その生活に足を踏み入れてから違和感を覚えた。そんで、自走して稼いだ金で学校通って、慎ましく悲劇のヒロイン演じて生きていこってそんなとこ。いんじゃない? すげー可哀想だもん」
「黙れよ」
「私報われない可哀想、哀れで愚かなんですー、って一生自分ばっか可愛がって生きてけばいいよ」
「黙れよ!!!!!!!!」
胸ぐらを掴んだら目と鼻の先で笑われた。ゆったりと瞬いたアオの目が何かを訴えていたのに、その色を読み解く前にぎゅ、と何かを握らされた。
手を開く。いつもの、いちごミルクの飴だった。
「…あんたさ、おれになんて言って欲しかったの?」
「…知るか」
飴を地面に叩き付ける。始業の時間はまだもっと先なのに、それでも私の憩いの場より、工場の方が今日はずっとマシに思えた。
その日、工場は地獄だった。
なんでも、パートの社員二人が辞めたそうだ。
辞める辞めないは、今に始まったことではない。他の工業と比べても安月給だし、劣悪な就業環境だ。ただ問題はそこに留まらず、部品の納期が大幅に遅れてしまうこととは別に、問題が発生した。