「青山聡介」
「…」
「…特別でもなんでもないだろ」
「うん。予想より普通だった」
「ひど」
青山聡介。ふうん。なんの変哲もない、普通の名。まぁ記憶にだけはとどめておこう、と脳の記憶の棚の本当にきっとほとんど出してこない引き出しにその言葉を仕舞ったら、一際眩しくなる日差しに目が眩み、空を見る。
太陽が見えた。そして、それを取り巻くように描かれた、虹色の円。
「…日暈だ」
「はろ?」
「ハロ。日暈! すごい、初めて見た」
「どんなの? 写真撮って」
「今スマホ持ってない。てかそっから出て来て見ればいいだろ」
「おれはここから動けないんだよ」
尻が重いだけだろうが。舌打ちをして、もう一度空を見る。
幾重もの光を織り混ぜる日暈に、飛行機雲が伸びていた。
世界に蔓延る戦争、政治。どう生きていくか。あなたならどうするか。その日学校で受けた授業の内容はスライドで、そんな内容だった。頬杖をつき、居眠りをし、隣と話し、スマホをいじる。ここも一種の社会だ。閉塞された小さな社会だ、そう思いながら、戦争の行われている街で飢餓に苦しみながらも笑顔を絶やさない子どもたちに、私は何も思えない。
心が、死んでいると思う。
光。太陽。何を道標にすればいい。
その夜。窓の外、紺色に浮かんでいた月に、ぼんやりと問いかける。
「赤星」
授業を終え、いざ帰ろうとしたら担任に呼び止められた。夜間の定時制高校に勤める教師なんてろくでもない、そういう偏見があったとして。入学初日にこの担任でよかった、と思わせてくれる、お人好しで、これと言った特徴のない教師だ。
30半ばから40手前。眼鏡をかけたジャージ姿が、私が振り向くと足を止める。
「今日、お前宛てに連絡があった」
「誰から?」
「久保井さんて方から」