香代と別れた後、陽茉莉はその足で行きつけのバー『ハーフムーン』へ向かった。ハーフムーンはオネエのママ──潤ちゃんがひとりで切り盛りしている店で、潤ちゃんは陽茉莉のよき相談相手なのだ。
「こんにちは」
「あら、陽茉莉ちゃん。こんにちは」
時刻は夕方五時。開店時刻を過ぎたばかりで、潤ちゃんはまだ開店の支度をしているところだった。
陽茉莉は邪魔にならないように、カウンターの一番奥に座る。
「なにかあったかしら? 元気ないじゃない?」
グラスの中に浮かぶ氷をぼんやりと眺めていると、潤ちゃんに声をかけられた。
「うん、なんか自信なくしちゃって」
「仕事で失敗した?」
「ううん、そうじゃないの。結婚したい人のお父さんが、結婚に反対していて」
「結婚したい人? 相澤さんのこと?」
クラッカーとチーズの盛り合わせを作っていた潤ちゃんは、視線をこちらに向ける。