「雅也様は、礼也様と陽茉莉様を自分と同じ目に遭わせたくないのです」
目を伏せて香代が紡いだ言葉は、広い和室に溶けて消える。
(やっぱり……)
それは、あのとき陽茉莉が疑問を覚えた通りだった。
本気で陽茉莉のことが気に入らないならば、あの日理由をつけて会うのを断ればよかったのに、雅也はそうしなかった。きちんと陽茉莉と向き合う時間をくれたし、反対はしたけれど、こうして香代という指導役までつけてくれた。
(雅也さんは、本当に礼也さんに幸せになってほしいんだ)
急激に気持ちが落ち込む。
──生涯でひとりと決めた相手と、命をかけるほどの強い思いを通じ合わせること。
狼神様になるには、心の底から愛した相手と通じ合わないといけない。雅也にとってのそれは、琴子だった。
だから、雅也はその相手がどんなに大切か身をもって知っているし、相澤と陽茉莉の気持ちを疑っていることはないはずだ。