「お待たせしました」

 香代がお盆にお茶をのせ、戻ってくる。茶托(ちゃたく)にのった湯呑みと共に、茶請けが置かれた。

「お台所をお借りに行ったら、和子さんがこちらをくださいました。日本橋にある和菓子屋さんの栗まんじゅうだそうです」

 香代は茶請けの説明をすると、自分の分も机に置いて陽茉莉の向かいにちょこんと座った。

「なんだか懐かしいです。琴子(ことこ)様もこうして立派な祓除師になれるように励んでおられました」
「琴子さんが?」

 陽茉莉は、香代の口から意外な名前を聞いて驚いた。琴子とは相澤の母親、つまりは雅也の妻の名前だ。

「香代ちゃんは琴子さんと会ったことがあるの?」
「はい、ございます。琴子様に祓除師のいろはを教えたのは雅也様と私ですから」
「そうなんだ……」