天界に行った日以降、陽茉莉は祓除師としての力量を上げるための特訓を始めた。香代が毎日のように人間界に来て稽古をつけてくれているのだ。

 祓除師の基本は、邪鬼を祓う祓除札をはじめとする様々な札を使いこなすことだ。

 これまで陽茉莉は祓除札と回復札のふたつだけを使ってきた。それが、祓除師が最もよく使う札だからだ。祓除札は邪鬼を祓う力が、回復札は自身の身を守ってくれるあやかしの妖力(ようりょく)を回復させる効果がある。

 しかし、祓除師が作れる札はこれ以外にも十種類以上ある。ベテランの祓除師はそのすべてを状況に応じて使いこなし、強力な邪鬼も祓ってしまうのだという。

(これは縛呪(ばくじゅ)札か……)

 今陽茉莉が作る練習をしていたのは、縛呪札と呼ばれる札だ。これを使うと、邪鬼の動きを一定時間、縄で縛ったように封じることができるという。
 封じられる時間は、それを作った祓除師の力量による。つまり、陽茉莉のように一枚一枚のクオリティーに差があると、あるときは一分保ったのに別のあるときは数秒しか保たない、ということもありうるのだ。