事実、陽茉莉は祓除札と回復札以外の札は使えない駆け出しの祓除師だ。今まで祓除師としての仕事をする際は、必ず相澤や他のあやかしが補佐をしてくれた。けれど、雅也が出した条件は〝陽茉莉がひとりで中級以上のあやかしを祓うこと〟だ。

 湯呑みを手に取って日本茶をひと口飲んだ雅也が、「香代、ここへ」と外に向かって呼びかける。すると、襖が開いて再び香代が顔を覗かせた。

「はい、雅也様。お呼びですか?」
「この娘に、祓除の方法を教えてやれ」

 雅也の言葉に、陽茉莉は驚いた。「え?」と小さく声を漏らす。

「邪鬼に()まれるとわかっている者をみすみす行かせるのは気分が悪い」

 ぶっきらぼうに言い放つと、雅也はすっくと立ち上がる。

「では、またな」

 そのまま振り向くことなく、部屋の外へと消えていった。