「礼也さん?」
おずおずと陽茉莉が呼びかけると、そのオオカミは一瞬にして人間へと姿を変える。
「陽茉莉、ただいま」
忽然と消えたオオカミの代わりに姿を現したのは、待ち人である陽茉莉の旦那様──相澤礼也その人だった。風になびく髪は、先ほどのオオカミと同じ銀色だ。
(ここ、三階だよ? 周囲に足がかりになる木もないのに!)
まさか、ベランダから現れるなんて想定外。この登場にはさすがの陽茉莉も驚いた。
「びっくりしました」
「陽茉莉がいるのが見えたから。俺のことが待ちきれなくて、外に出ていたんだろ?」
相澤は当然そうであると断定するように、陽茉莉に尋ねる。