相澤は元気になった後、陽茉莉に会いたくてこの町を訪れたと以前言っていた。けれど、陽茉莉の家族はすぐ近くの家に引っ越していたため、結局会えずじまいだった。

「あのときは本当にがっかりしたな。二度と陽茉莉と会えないと思って、落ち込んだ」

 相澤は握っていた陽茉莉の手を持ち上げると、手の甲にキスをする。大切な宝物を(いつく)しむかのような優しい触れ方に、胸がきゅんとした。

「……ずっと気にかけてくださってありがとうございます」

 そんな些細(ささい)な出会い、普通なら時の流れと共に忘れてしまう。けれど、相澤はたった一度しか会っていない陽茉莉が自分の唯一に違いないと確信し、会えなくなった後もずっと気にかけていたそうだ。そして、陽茉莉がアレーズコーポレーションに入社したことを偶然知ると、邪鬼に襲われやすい陽茉莉を守るために転職までして、陰から守ってくれていたのだ。

 目が合うとにこりと優しく微笑みかけられて、また愛しさが込み上げた。