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 陽茉莉の実家は都心部から電車で三十分ほどの郊外にある。駅前には商店街があるものの、それ以外は閑静な住宅地が広がる典型的なベッドタウンだ。

「ここ、懐かしいな」

 幅五メートルほどの道路の両側に小さな商店がひしめき合う商店街を歩いていると、相澤が呟くのが聞こえた。

「来たことあります?」
「ずっと昔ね。陽茉莉にもう一度会いたくて、来た」
「あっ……」

 すぐになにを言っているのかわかった。

 陽茉莉にとって相澤は会社の上司として会うのが初めてだったが、相澤にとっての陽茉莉は小さな頃に出会った初恋の相手だったという。邪鬼と戦って傷つき、オオカミの姿で動けなくなっていたところを助けてくれた女の子──それが陽茉莉だった。陽茉莉はそのとき、助けたのはただの犬だと思っていたのでそれには気付いていなかったけれど。