夕食を終えた陽茉莉は台所を覗く。シンクの前では腕まくりした相澤が使い終えた皿を水で流していた。
 夕ご飯を作るのはいつも陽茉莉の役目だけれど、その代わりに相澤は後片付けを率先してやってくれる。こういう気遣いができるところは相澤の魅力のひとつだ。

 ふとカウンターを見て、明日の朝食のパンを切らしていることに気付く。

「礼也さん、私ちょっとコンビニ行ってきますね」
「なんで?」

 相澤は手元を動かしたまま、顔だけを陽茉莉のほうに向けた。

「明日の朝食に食べるパンがありませんでした」
「本当だ。会社帰りに買ってくればよかった」

 相澤はパンの定位置であるカウンターの上に視線を移し、肩を(すく)める。

「ひとりで大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。行ってきます!」

 陽茉莉は元気に頷くと、鞄(かばん)から財布だけを取り出しポケットに突っ込む。コンビニまでは徒歩五分もかからない。鞄を持っていくまでもないだろう。