「相澤さん、やっぱりいつ見ても格好いいよねー」

〝相澤さん〟という名前が聞こえ、ドキンとして耳をそばだてる。

「だよね。爽やかなのは前からだけど、最近はさらに男の色っぽさが出てきたというか。噂だと結婚を前提にお付き合いしている方と一緒に住んでいるらしいから、そのせい?」
「奥さんになる方、どんな人なんだろ? あんな素敵な旦那様、羨ましいー!」
「そりゃあ、めちゃくちゃ美人で気の利く、才色兼備のお嬢様なんじゃない?」

 エレベーターが止まり、チーンという音と共にドアが開く。きゃっきゃとおしゃべりをしていたふたりはそこで降りると、事務所のほうへと消えていった。

(うーん、気まずい……)

 誰が見ているわけでもないのに、陽茉莉は持っていたバインダーで顔を隠す。

 相澤が狼神様に昇華した今、陽茉莉は間違いなく相澤の花嫁だ。けれど、現実世界での入籍はまだ済ませていなかった。

(その〝めちゃくちゃ美人で気の利く、才色兼備のお嬢様〟の想像をぶち壊しにするお相手はここにいるんです……)

 周りの人たちの期待度が高すぎて、本当のことは口が裂けても言えないと思った。