テニスが忙しいことを理由に、生徒会長選には出馬しなかった。立候補すれば絶対に当選するのにもったいないと言われた。同じ理由で出馬しなかったクラスメイトの響也も、別の友人にまったく同じことを言われたらしい。もし二人とも会長選挙に出ていたらどっちが勝ったのかな、なんて他愛のないことを話しながら校則違反の買い食いをした。

「でもさあ、俺、結局ユウジから生徒会に勧誘されたんだよね。去年同じクラスで仲良かったんだよ」

「ユウジって新会長の?面識ないけど。私も、新副会長から勧誘されてる。エリって分かる?」

「そうそう。エリは去年同じクラスだったけど、華音は何つながり?」

「中学の生徒会で一緒だった。華音がいたら心強いからお願い~、とか言われたら断れないよね」

「マジで?華音って中学で生徒会入ってたんだ。知らなかった」

 私と響也は、だいぶ昔から面識がある。とはいえ同じテニススクールに通っていた友だちというだけで、出身中学自体は違うので案外お互いについて知らないことも多いのだと最近気づいた。

 同じ高校、同じ部活になって私たちはよく話すようになった。2年生になって同じクラスになってからは、誰がどこからどう見ても親友といって差し支えない。ザイアンス効果というものがある。別名を単純接触効果。長い時間を過ごす相手とは自然と親しくなる。

 地方の公立高校である我らが第一高校は、予算が少なく、設備が物足りない。私たちの学校にはテニスコートがないので、私と響也が所属するテニス部は近隣のテニスコートを借りて練習している。営業していない早朝の練習はないし、使用料金の跳ね上がる土日や夜間の練習はない。そして、予算の都合で練習日数も校庭で毎日汗水垂らしている野球部やサッカー部、体育館を半分に分けて毎日練習しているバレーボール部やバスケットボール部に比べると少ないのである。

 中学の時もそうだった。なので、中学から個人的にスクールに通っていた。響也もそうだった。テニスが楽しくて夢中になった私は、小学校の時に習っていたピアノをやめた。テニスをちゃんと習っているのは私たちの学年では響也と私の二人だけだ。必然的に響也が男子テニス部の、私が女子テニス部のキャプテンになった。

「会長と副会長以外はそんなに忙しくないみたいだし、私はやってもいいと思ってる」

「じゃあ、俺もOKしようかな」

「部活ではキャプテンやって、習い事やって、生徒会までやって・・・・・・ってなったら、私たち青春フルコースだね」

「分かる。高校生活、満喫してるよな。でも、思うんだけど青春って何なんだろうな」

「自分で言ってなんだけど、確かに。ニュアンスだけで使ってるね、青春って言葉」

 テニススクールにつくまでの間に、私たちは生徒会への入会を決めた。テニススクール、テニス部、クラス、そして生徒会と4つのコミュニティを響也とは共有することになる。一般に、複数のコミュニティを一人の人間と共有することはストレスを伴うものらしいけれど、響也となら息苦しさは感じない。響也もそう思ってくれているのなら嬉しいと思う。

 青春とは何かなんて分からない。高校生の私は、学校と習い事が以外の世界を知らない。難しいことなんてどうでもよくて、今が楽しければそれでいい。