大学の近くにチェーン店の中華ファミレスがあった。
ある日の大学帰り……いつもより遅くなってお腹がすいたので、優里ちゃんとそのファミレスに寄った。
(友達との寄り道ってなんかいいな)と楽しかったが……
私は注文したチャーハンを食べている途中に違和感を覚えた。
「なんか油多くて気持ち悪い……」
傾けるとお皿の端に溜まるほどの油……
近くにいたウェイトレスに「すみません」とそのことを伝えると、新しいのに交換してくれた。
飲み物がなくなっていたのでドリンクバーをおかわりしようと厨房付近に行ったところ……
「悠希《はるき》、もういい! お前今度からフロア担当しろ!」
「すみません……」
と、厨房の奥から店長さんとバイトらしき人の声が聞こえた。
それから色々なことが沢山あった大学1年の7月7日、七夕の日……
大学の帰りがけ、駅までの道をボーッと歩きながら(今日は七夕だな)と思っていたら、
「よっ!」と自転車で向こうから向かって来る人物が、私に向けて手を挙げた。
メガネをかけているが目が悪い私は、大谷孝次とすぐに分からず……
びっくりし過ぎて思わず車道側によけ、たまたま来たバスに轢かれそうになった。
「バカ!! なにやってんだよ!!」
「え?……だってびっくりしたから……」
突然の危ない出来事にドキドキしてへたり込みそうになった。
大谷孝次は自転車に乗りながら器用に私の二の腕を掴んで支え、どこか落ち着ける場所がないか気を使ってくれて、近くの中華ファミレスに行くことになった。
歩いている途中、自転車に股がりながら車道側をゆっくり進み、さりげなくガードしてくれる彼……
バスに轢かれそうになり、呆然としていた私を本気で心配してくれた怒鳴り声がずっと耳に残っている。
私はその声を不覚にもカッコいいと思ってしまった。
「今日は七夕だし、これって運命なのかな?……(ボソッ)」
中華ファミレスに着いてドリンクバーを頼む。
ジンジャーエールを一口飲むと気分が落ち着き、私達は色々な話で盛り上がった。
「そういえば飲み会の幹事、無事終わってよかったよね」
「え……あ……うん」
「幹事って大変なんだね~私、初めてで何も分からなくて……役立たずでごめん」
「い、いいよ……俺、慣れてるし」
「なんか飲み会の後も何度か電話くれてありがとね~なんか話してると元気貰える気がするよ」
「べ、別に…………礼なんか言わなくて……いい」
「すごいよね~みんなとも気さくに話せるし、英語の発表の時も堂々としてたし……私と正反対~」
「あの……さっ……好きなやつ……いたり……する?」
「好きな人?……今はいない……かな……」
「……っ………………じ、実は入学して初めて会った時から……す、好きでしたっ!」
「え?………………っええ~~~?!」
真っ赤な顔で目をつぶる大谷孝次の前で、私は固まった。
告白されたのは生まれて初めてだったから、びっくりし過ぎて信じられなくて……
そして今までの自分の行動を思い返した。
色んな人の話し声で賑わう広い学食内で、彼の声だけが聞こえていたこと……
気が付いたら広い教室内で、彼の後ろ姿を目で追っていたこと……
彼から電話が来ると元気になり、来ないとなんだか落ち込んでいたこと……
「ごめん……さっき嘘ついたかも……」
「……私も……好き?……です……」
心臓が口から出そうな位ドキドキしながら、やっと言葉を発した。
その後はテンパり過ぎて、すぐ帰ろうということになり、お会計が奢る奢らないで揉めたが結局割り勘で落ち着いた。
「あ~あ~誕生日なのにバイトか……面倒くさ……」
「なんだあれ……すぐそこの大学生カップルか? イチャつきやがって……」
「おい悠希……レジ!」
「あ~い」
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「ありがとうございました~」
割り勘で会計し店を出た後、私はお財布の中に入れていたお守りのステッカーがないのに気が付いた。
篠田先生に貰った宝物……
急いで戻ると、さっきの店員さんがまだレジにいた。
「すみません……透明なステッカーが落ちていませんでしたか?」
「この位のカードみたいなやつで……」
私は見本になるように、L字型にした指をくっつけて四角を作って見せた。
しかし長方形が上手く作れず……右手を反転して見せようとしたら、アイドルポーズみたいになってしまった。
「ああ、これですか?」
「ありがとうございます~よかった~」
店を出た後、私は呟いた。
「なんか今の人、先生に似てたかも? 同じようなメガネかけてたし……な~んてね」
その頃、レジでは……
「変なやつ……でも誰かに似てるような……」
そんな二人がお互いの名前を知ることになるのは、それから何年も経った後のお話……