『最後の日記』BIRTHDAY~君の声~

 退職した日の次の月初め……最後のお給料を受け取りに行く日は偶然七夕だったので、私は最後の誕生日プレゼントを用意していた。
 ……といっても私が使っていたケアマネの問題集をラッピングしただけだが……
 何かを買うより、その方が余程、彼の将来に役立つ気がしていた。

 でも突然、所長からメールが来て……行く予定が前日の勤務後になり、私は彼に渡すはずだったプレゼントに入れる手紙を書くことにした。

 私は不思議と何を書いたのか覚えていなかった。
 最後の日に伝えそびれた「ありがとう」を伝えるために、必死になって何度も書き直したことだけは覚えていた。

「もう一度だけ……」とクマのぬいぐるみを強く握った瞬間、自分の姿と文章がはっきり見えた。
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今日は七夕。
悠希くんの誕生日だね。
お誕生日おめでとう。
本当は直接言いたかったけど、無理なので手紙を書きました。
あの時言えなかったけど、最後の日に庇ってくれてありがとう。
花束も用意してくれてありがとう。
涙が出る程嬉しかったよって本当に泣いちゃったけど……

悠希くんには恥ずかしい所ばかり見られている気がします。
年下のくせに生意気で、お前とか言うし私にだけ冷たいし……
でも本当は優しい君に何度も救われました。

今までありがとう……君も彼女と幸せになってね。
プレゼント代わりにケアマネの問題集を同封します。
いつか試験を受けたら、絶対合格しますように……
~~~~~

 本当は『私のことを忘れないで……』と書きたかったがやめた。
 思えばいつから彼が気になっていたのかも分からない。
 九死に一生の場面を救われるような決定的な事件があった訳でもない。
 ただ一緒にいるだけで、なぜか嬉しかった。
 何も喋らなくても、寒い事務所でも、一緒に残ってくれているだけで幸せだった。
 そのことに会えなくなってから気付いた私はバカだ。

 でも娘に会えなくなる人生は考えられない。
 夫のおばあさんとした夫のそばにいるという約束も破りたくない。
 だけどやっぱり……彼にもう一度会いたい気持ちを諦めたくない。

 これから起こることと未来が見えた私は、手紙の最後に一言だけ書き加えた。

『50年後の七夕……あの公園で逢いましょう。』