――どういう、ことだ?
 俺の頭の中はしばし、その言葉で埋め尽くされた。
 出入口で銃を向けている人物は、間違いなく俺の妹である海晴。彼女は大粒の涙をたたえて、震えた手でそれを持っていた。
 対するのはアレン。彼は息を殺し、まるで死んでいるかのように動かず。
 そして、ブレることなく銃口を海晴に向けていた。

「アレは、お前の妹か?」

 状況を確認していると、アレンは俺にそう訊く。

「あぁ、そうだ。だけど――」
「見れば分かるさ。何者かに脅されているのだろう」

 こちらの肯定に、被せるようにそう答えがきた。
 たしかに、そう考えるのが妥当だろう。海晴が銃を持っているとは考えにくい、というかあり得ない。妹はきわめて一般的な日本の高校生だ。
 表情や手つきから見ても、動揺が見て取れる。

「…………」

 俺はミレイの寿命を確認した。
 そこには相も変わらず、残り僅かなタイムリミットが示されている。
 反対に海晴の方は――どうやら、この場は生き残るであろう。そう思わされる寿命が頭上にあった。そうなってくると、考えられる可能性はなにか。
 この場に、他に人の気配はない。店主もどこかへ消えていた。

 すなわち、この4人で事は完結する。

「考えろ……!」

 何も行動を起こさなければ、ミレイが死ぬのは確定してる。
 だとすれば、俺の取るべき行動は……。

「お前――ミコト、といったか」
「……どうした、アレン」

 考えていると、ピタリと固まったままアレンが口を開いた。
 こちらが聞き返すと、こう続ける。


「威嚇射撃だ。お前の妹の銃を狙い撃つ――いいか?」


 それは、自身の腕に絶対の自信があっての発言だった。
 つまりは海晴のそれを撃ち落とし、この場を切り抜けるという可能性。しかし、

「…………ダメだ」

 俺は首を左右に振った。
 このままの運命なら、何らかの形でミレイは死ぬのだ。

「どうした。やはり、妹の心配か?」
「………………それは」

 考えろ、考えるんだ――!
 俺は思考を巡らせる。そして、ふと見上げた視線の先にあるものを見た。
 その直後だ。

「もう、限界だ。行くぞ――!」
「くっ……!?」

 アレンが引き金に指をかけて、力を込めた。
 それを察知したのか、海晴もまた――。


「いやあああああああああああああああああああああああああああああっ!?」


 そう、悲鳴を上げながら引き金に指をかけた。
 その瞬間に、俺は考えるよりも先に行動に移していた。

「な、馬鹿かミコト!」
「ミコトくん!?」

 ミレイとアレンの声を後ろに聞きながら。
 俺は……。



 ――ダン、ダンッ!!



 銃声。
 そして、右腕と左脚。
 2か所に激痛が走った。


「い、てぇ……!」


 俺は痛みに眉をしかめる。
 日本に住んでいて、銃で撃たれるなんて経験するとは思わなかった。いいや、正確には自らその弾に当たりに行ったという方が近いのだけど……。

「お、兄ちゃん……?」
「安心しろ、海晴。お前も俺が守るから……」

 しかし、いつまでもそのままではいられない。
 俺は痛む足を引きずって、妹のもとへと歩み寄った。そして、彼女を優しく抱きしめて頭を撫でる。銃を取り上げて、へたり込むその身を支えるのだった。
 すると海晴は、とうとう堪え切れなくなったらしい。


「う、うええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!」


 泣きじゃくった。

「大丈夫。もう、大丈夫だからな?」

 そんな妹をあやすように、俺はそう語りかける。
 その最中に、ちらりとだけミレイの方を見た。彼女の寿命は――。


「良かった。正解、だったみたいだな……」



 しっかりと、延長されていた。