この身が異形と成り果ててから、どれだけの月日が経っただろう。
かつての私には『巴』という名があった。
美しく、聡明で、心根も優しく……最良の花嫁だと、誰もが顔をほころばせた。
あの男もそうだった。
『そなたを愛している』
『私はなんと幸運なのだろう。永遠に大切にする……私の命姫』
彼は夜毎、私への愛を語った。
愛されることの喜びを知り、私はとても幸せだった。
自分以上に幸福な娘はいない、そう信じていた。
だが、不幸なことに私は初音よりずっと賢かったのだ。
彼の花嫁となって二年もすると、命姫のからくりに薄々気がついてしまった。
でも……それでもいいと思った。
彼は知らない。このままどうか気づかずに――。そう、願った。
自分の身代わりに私が死んでいく残酷な事実を、愛する男には知らせたくなかった。
今になって思えば、なんと滑稽なことか。おめでたいにもほどがある。
嫁いで三年。
腹心とボソボソと内緒話をする夫の声を、私は偶然にも聞いてしまったのだ。
『いいか。僧医によく言い含めておけよ。巴は治癒の難しい病にかかっている、みなの前でそう言えとな』
『かしこまりました。物の怪に憑かれていると言いましょう』
かつての私には『巴』という名があった。
美しく、聡明で、心根も優しく……最良の花嫁だと、誰もが顔をほころばせた。
あの男もそうだった。
『そなたを愛している』
『私はなんと幸運なのだろう。永遠に大切にする……私の命姫』
彼は夜毎、私への愛を語った。
愛されることの喜びを知り、私はとても幸せだった。
自分以上に幸福な娘はいない、そう信じていた。
だが、不幸なことに私は初音よりずっと賢かったのだ。
彼の花嫁となって二年もすると、命姫のからくりに薄々気がついてしまった。
でも……それでもいいと思った。
彼は知らない。このままどうか気づかずに――。そう、願った。
自分の身代わりに私が死んでいく残酷な事実を、愛する男には知らせたくなかった。
今になって思えば、なんと滑稽なことか。おめでたいにもほどがある。
嫁いで三年。
腹心とボソボソと内緒話をする夫の声を、私は偶然にも聞いてしまったのだ。
『いいか。僧医によく言い含めておけよ。巴は治癒の難しい病にかかっている、みなの前でそう言えとな』
『かしこまりました。物の怪に憑かれていると言いましょう』