そう思うと、口元が緩み思わず笑ってしまいそうだった僕に、
「なっ、なんだよ」
「べつになにも……」
「なら笑うなよ! 嘘じゃねーからな! ほんとになんでもねーから!」
「……いや、僕なにも言ってないけど」
責められてる気分がするのは、納得いかない。
「とととと、とにかく水戸さんには絶対に言うんじゃねーぞ!」
ビシッと指を突きつけて、顔を真っ赤にさせて激怒した釘崎くん。
「は、はあ……」
仕方なく僕は、頷いた。
釘崎くんは、それだけ言って逃げていった。
なんだったんだ、今の。ていうか最近、ずっとこんなことばかりだ。今までは僕のこと誰も見てなかったのに、水戸さんが関わった途端僕に声をかけるなんて。
「ねぇねぇ、小春ちゃんは?」
おもむろに聞こえた声に顔を向けると、水戸さんといつも一緒にいる女の子たちが数名そこにはいた。
「さぁ、それが私も分からなくて」
僕は、それに耳を傾ける。
「多分、飲み物買いに行ったとかじゃない?」
「そうなのかなぁ。最近、すぐいなくなるからどーしたんだろう」
「うんうん、今までは一緒に買いに行ってたのに」
……水戸さんがいない? しかも最近になってから?
「どうしちゃったんだろう。それともどこか体調でも悪かったのかな」
「うーん、でもそんな様子なかったし」
「だよねぇ。小春ちゃん、いつも元気だし」
「でも、体育はいつも見学だよね」
「うん。あ、それは喘息持ちだからって言ってた。でもほんとはすごく走りたいんだって」
……喘息持ち? それは知らなかった。
でも、なるほど。だから体育は見学だったのか。
「なぁなぁ、水戸さんは?」
「知らない。私たちも探してるんだけど、みんな知らないって」
水戸さんが見つからないなんて不思議な話だ。校内は広くても、どこかしらに必ずいるはずなのに。
「うーん、どこ行ったんだろ」
それとも、あえて見つからないような場所を選んでいる?
〝──お願い、誰にも言わないで〟
頭の中に浮かんだ、水戸さんの声。
な、なんで僕は今そんなこと思い出して……
まるでそれが、なにかの暗示のようで。
……もしかしてまた一人でどこかで泣いてる?
胸がざわざわして、落ち着かない。
居ても立っても居られなくなった僕は、開きっぱなしの本を閉じて席を立った。
それから図書室、体育館の裏、理科室、家庭科室、音楽室、ありとあらゆる場所を探してみた。けれど、水戸さんの姿はどこにもない。