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水戸さんに教室で声をかけられて以来、僕の周りではおかしなことが続いた。
「なぁ、この前はほんとになにもなかったわけ?」
ある日の休み時間。目の前には、釘崎くんがいた。釘崎飛鳥くん。いつも水戸さんと話している男子だ。
〝この前〟とはおそらく水戸さんに呼び出されたあれのこと。そのことに関しては、僕は何もないと答えたはずなのに、それでもたびたび聞いてくるってことはまだ納得してないのかな。
「何度も言うようだけど、ほんとに、なにもなかったから」
あと何度、このやりとりを繰り返せば釘崎くんは納得してくれるのだろうと想像するだけで、深いため息が漏れそうになる。
「でも少しくらい話したんだろ?」
「それは、そうだけど……」
「じゃあなんの話してたんだよ」
……何の話って言えるわけない。
つい最近まで、僕のことを透明人間扱いしていたくせに水戸さんが関わると、手のひら変えたように馴れ馴れしくなる。
「……ただ、ちょっと無くし物を探すの手伝ってただけ」
咄嗟についた嘘に、「無くし物?」きょとんとした釘崎くんは、わずかに眉間にしわを寄せる。
──なんで俺たちじゃなくて、こいつに水戸さんが頼むんだよ。
おそらく、そう思っているのだろう。
「あのとき僕がゴミ捨て当番だったからじゃない、かな」
自分が思っていた言葉を読まれたのがそれほど驚いたのか、「は? なん、で……」分かりやすく動揺する釘崎くん。
「とにかく釘崎くんが考えてるような、ことは一切ないから」
無くし物を探した事実はないけれど、こうでも言わなきゃきっと釘崎くんは納得してくれないはずだ。
「ふーん、そっか。それならいいけど」
ようやく納得したのか釘崎くんは圧を少しだけ弱めた。
水戸さんのことになるとここまで態度が変わるとすれば、答えはひとつしかない。
ゴクリ、と固唾を飲んだ僕は、
「……もしかして、水戸さんのこと……好きなの?」
恐る恐る尋ねてみれば、「は?」ぽかんと固まった釘崎くん。
あれ、間違いだったのかな、そう思っていた矢先、カアッと顔を真っ赤にさせて。
「なっ、なに、言ってるんだよ……べ、べつに、そういうわけじゃねーし……!」
あからさまに動揺するから、その言葉には何の威力も感じられなかった。
──ああやっぱり。