「昨日はどうして泣いてたの?」
いつも陽だまりのように明るい水戸さんが、ひとりであんな場所で、泣いていたのか。
涙を流す理由を知れたら、もしかしたら力になれるかもしれない、と。そんな小さな期待をしていたのかもしれない。
「あー……それは……」
けれど、ピクリと動揺した水戸さん。
その笑顔は、笑顔が引き攣ったような表情で。
言いにくそうに「えっと、あの」と視線を左右に移動させるから。聞かなかった方がよかったのかなと不安になった僕は。
「ごめん、言いにくいなら……」
パッと目を逸らして、話を打ち切ろうと思った。
すると、
「飼ってたわんちゃん……が亡くなったの」
小さな声に、弱々しくなる水戸さんの声が聞こえてきた。
「ずっと一緒だったから……思い出しちゃったら悲しくなっちゃって。高校生にもなって泣いちゃうなんて恥ずかしいね……」
──ずっと一緒だった犬。それはもはや家族同然だよな。そうだったんだ。そんなことがあったなんて、知らずに聞いて。
「ご、ごめん」
身勝手な知りたい欲が先走り、悲しいことを思い出させてしまった。
「う、ううん、大丈夫」
気を使わせてしまった。
僕は、なんて最低なんだろう。
それから水戸さんと別れて、彼女より先に教室に戻ると、複数名に囲まれた。
目の前に並ぶ顔ぶれは、いつも水戸さんと親しげに話す男女数名。そして『何を話した』のか尋ねられた。けれど、水戸さんは誰にも言わないでと僕に口止めをした。その約束を僕は破るつもりはなくて、何もないの一点張りで逃げ切ったのだった。