この人誰なんて思いながら困ってたかな。
あー、そうだったらショックだなぁ……
「牧野くん?」
いやいや、そもそも知ってるはずないよね。僕、目立たないし。ていうか、みんなに認知すらされてないし、入学してしゃべったのなんて入学式のあとの自己紹介くらい。
「まーきーのーくんっ!」
突然、盛大な声が目の前から聞こえてきてハッとした僕は、「ぅわっ!」声を張り上げて顔を上げた。
すると、そこにいたのは……
「みみみみ、水戸さん……?!」
人気者の彼女だった。
「やっと気づいてくれたね。三回も呼んだんだよ」
えっ……三回? 僕のことを呼んでた? ……全然気づかなかった。考え事してたからかな。
「ご、ごめん……」
とりあえず謝っておこう。
「ううん、大丈夫」
今日も相変わらず笑顔の水戸さんを見て、心がほっこりする。が、突き刺すような視線が四方八方から向けられて居心地が悪い。
一ミリも顔を動かせない。周りの視線が怖すぎる。誰とも目を合わせたくない。
こそこそと聞こえる僕に対する嫌味的な言葉。〝なんであいつが〟〝牧野のくせして〟過敏になる耳は、器用にその数々の言葉を拾い上げる。
「そ、それより、僕に……用ですか」
僕から声をかけたわけじゃないのに僕が責められるような雰囲気に、なんて理不尽な世界なんだとうんざりする。
「うん、ちょっと昨日のことで」
控えめに声を落としたあと、照れくさそうに微笑んで、
「今、少しだけ時間あるかなぁ」
〝昨日〟のことで急速に手繰り寄せられる記憶は、ひとつしかなくて。
知らないとシラを切ることができなかった僕は。
「は、はい……」
二つ返事で返した。
それから移動してやって来たのは、校舎裏だった。
「いきなり呼びつけてごめんね」
まるで告白前のワンシーンのような言葉が飛び交って、動揺した僕は。
「い、いや、べつに……」
急速に口の中が乾いていく。そんな僕の鼓動はどきどきと全力疾走。
なぜならば、この学校は校舎裏が告白スポットだともっぱらの噂だ。
もちろん僕に限ってそんなことあるはずはない。それなのに、少しばかり期待している自分がいるのは、自意識過剰なのだろうか。
「えっとね、あのね」
そんな僕をよそに水戸さんは、目の前で少しだけ恥ずかしそうにもじもじするから、さらに僕の頭の中には〝告白〟のニ文字が浮かぶ。
「牧野くんを呼んだのは、ほかでもない昨日のことなんだけど」
けれど、そんな期待も虚しく彼女の口から現れた言葉はそれだった。