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昨日、〝一緒に登校したい〟という水戸さんのお願いを断ることができなかった僕は、翌朝、水戸さんと公園て待ち合わせをしてから学校へ向かった。
「ねえ、やっぱり別々に登校した方がいいんじゃないのかな」
「日和くん。ここまで来てまたそんなこと言ってるの? もういい加減、腹括らなきゃ」
「いや……逆になんでそんなに水戸さんは男前なの」
「夢だったの。好きな人と一緒に登校することが!」
〝好きな人〟という言葉に反応した僕は、
「……え、あっ……そう……」
思い切りにやけそうになる表情を隠すように、口元を手で覆った。
もちろん緊張して、今にも心臓が口から飛び出しそうなほどだ。けれど、それでもここから逃げ出したいと思わないのは、彼女が。水戸さんのそばにいたいからだ。
「みんな、おはよう」
教室に着くなり水戸さんが真っ先に口を開いた。
「おはよ……て、え?」
けれど、クラスメイトの視線は水戸さんではなく僕へ向けられた。みんな固まって、ぽかんとしている。
「な、なんで、牧野と一緒に……いや、一緒なわけないよな。途中どこかで会ったんだよな!」
予想できない現実に直視できなくなったのか、ただの偶然だと決めつけようとする釘崎くん。
「そそそ、そうだよな、牧野!」
僕に問いかける。
けれど、僕はそれを肯定はしない。
「えっと、実は……」
頑張れ僕。勇気を出せ。
ぐっと拳を握りしめて、言葉を紡ごうと思ったら、
「みんなに言いたいことがあるの」
突然、僕の左手を掴んだ水戸さん。
「えっ、ちょ……あの?」
僕も動揺するが、それ以上に動揺したのはクラスメイトだった。
「私、みんなのこと大好き!」
水戸さんの口から現れたのは、そんな言葉で。
クラスメイトは、突然どうしたんだろうとぽかんと固まる。
「このクラスになれてよかった。みんなに会えてよかった。みんなと過ごす時間が幸せだった」
公園で待ち合わせしたとき、水戸さんが言った。
〝病気のことはまだ言わない。でも、その時がきたらちゃんと言うから。〟
その時は、今じゃないけれど。
どうしても水戸さん自身のみんなに対する思いを言いたかったんだと思う。
「みんなとの思い出がたくさんできて、ほんとによかった。すっごく嬉しかった」
水戸さんの病気のことを知っているのは、僕だけだ。だから、途端に胸が苦しくなって泣きたくなった。
「小春ちゃん、どこかに行っちゃうの?」
誰かがぽつりと呟いた。