「このまま帰るのはちょっとなぁ……」

 真っ直ぐ帰るところを少し遠回りする。普段歩かない道に景色に、少し心がわくわくした。

 しばらく歩くと、小さな公園が見えた。

 アスレチックなんてものはなくて、懐かしさのある公園。おもむろに足を踏み入れると、女の子がひとりベンチに座り込んでいた。

 ──ズズッ……

 そんな音と共に、顔に手を当てる女の子。

 ……もしかして泣いてる?

 なにか悲しいことがあったのかな。僕に気づいてないってことはよっぽど悲しいんだろうな。

 僕が、ここにいたら邪魔だよね。

 踵を返して来た道を戻ろうと思った。が、やっぱり泣いている子を放置したまま立ち去ることはできなくて。

「──あのっ……だ、大丈夫ですか?」

 ベンチに駆け寄って声をかけた。

 すると、「……へ」くぐもった声を漏らしながら、恐る恐る顔を上げた女の子。

「……あれ、きみは……」

 視線がぶつかった女の子を見て、僕は動揺した。

 なぜならば、目の前にいた子は。

「……水戸さん」

 僕のクラスメイトの人気者だったのだから。

「……牧野くん?」

 きょとんとしながら、少し震える声で名前を呼んだ。

 ベンチに座って僕を見上げる。泣いているから瞳も赤く、鼻先も赤く染まっていて。

「あっ、えっと……」

 まさかのクラスメイトに、人気者である彼女が泣いていた二つの出来事が重なって、言葉はうまく出てこない。

 いつも明るくて笑顔だった水戸さんが、今は一人で泣いている。

「ご、ごめん……見るつもりは、なかったんだけど……」

 どうしてこんな人気のない場所で泣いてるんだろう。

 すごく理由が気になる。

 けれど、聞かない方がいい。

 それ以上に、もしかしたら泣いてる姿を見られたくなかったのかもしれない。

「あのっ、これよかったら……!」

 ついさっき買ったばかりのミネラルウォーターを水戸さんの前にずいっと突きつけると、「え」と困惑しながら目をぱちくりさせる水戸さん。

「邪魔してごめん。えっと、あの……僕、これで帰るから、それじゃあ……」

 口早に告げたあと、逃げるようにその場をあとにした。


 ◇


 昨日は、逃げてしまった。

 たいしてしゃべったこともないクラスメイトからミネラルウォーターを押しつけられて水戸さん迷惑だったんじゃないかな。

 あのあと、どんな表情だったんだろう。

 振り向かなかったから分からないけれど、ムッとしてなかったかな……いや、水戸さんがそんな表情をする人とは思えない。

「牧野くん」

 いや、そもそも水戸さんが僕にしゃべりかけることなんてないだろうし。僕が、同じクラスだと気づいているかすら曖昧だ。