「でも僕は、大丈夫だから」
「分からないよ……だって人間、いつどうなるかなんて分からないから……」
ぎゅっとスカートを握りしめて、唇を結ぶ水戸さんは、まるで怯えている子どものようで。
「私、ほんとに……怖くて……」
──水戸さんが、こんなに怯える理由はたったひとつ。
命の尊さを、期限ある命を、嫌というほど理解しているから。
いつどうなるかなんて、誰にも分からない。
だから僕だって、当てはまるわけで。
「日和くんの目が覚めなかったら私──…」
けれど、そんな苦しい思いはしてほしくなかった。
「僕は、生きてる!」
彼女の手のひらに自分の手を添えた。
「ちゃんと生きてるから!」
小さくて、冷たい、手のひらを安心させるように包み込む。
「だから……そんなに怯えないで」
水戸さんに、悲しい顔は似合わない。
「日和、くん……」
水戸さんには、笑顔が似合うから。
「心配かけて、ごめん。でも僕は、勝手にいなくなったりしないから」
僕の手の上に、さらに手を重ねた水戸さん。
「……うん…うん……」
泣きそうになりながら、頷いた。
人前で泣くことを躊躇わなくなった。
「…そうだ。水戸さんに渡したいものがあるんだった」
思い出したようにパッと手を退けると、鼻をすんっとさせながら涙を拭う水戸さん。
僕は、ポケットからハンカチを取り出した。
「これ、水戸さんにあげる」
そこからあるものを摘んで、水戸さんに手渡した。
「え、これ……」
「うん。見つけたんだクローバー」
それは、やっとの思いで探しだすことができた四つ葉のクローバー。
「なかなか見つからなくて、焦ったんだけど……なんとか見つけることができてよかった」
ようやく渡すことができた。
「もしかしてずっとこれを……だから倒れ……」
クローバーを見つめたあと、僕を見据えた。
「あー……いや、べつに、そのせいじゃないから水戸さんが気にする必要ないから」
これは、僕が好きでやったことだ。
「次はなんだったっけ? あの紙、今持ってたりする?」
四つ葉のクローバーに願いたい。
水戸さんの病気が治りますように、と。
「──どうして」
突然、僕の言葉を遮った水戸さん。
「どうして日和くんはそこまで……」
──どうして、か。
少し前までは、ただのクラスメイトで話すこともなければ、僕たちは住む世界が違うのに。
普段は、明るくて陽だまりのような水戸さん。
そんな人が放課後、公園で一人泣く姿を見てしまったら、声をかけずにはいられなかった。
他人ではいられなくなった。
心に触れて、知らなかった事実を知って、僕はきみのことを。