「ごめん、嫌かもしれないけど少しだけ我慢しててほしい……!」

 ここで座り込んでいたら水戸さんの病気がバレてしまうかもしれない。だから僕がとった行動はひとつ。

 彼女を背中に乗せて、保健室へ向かうことだった。

「少し貧血が出たのね。でも少し休めば大丈夫よ」

 保健の先生が水戸さんを見てそう言った。

「貧血ですか……」

 あんなに苦しんでたのに貧血なわけがない。

 もしかして先生も嘘をついているのかな。

「少し熱があるわね。もしかして昨日、雨に濡れたかしら?」
「あ、昨日の放課後に少し……」
「そう。あまり無理は禁物よ」

 先生たちでさえも病気を隠すということは、おそらくこれは水戸さんの意思を汲んでのことだろう。

「水戸さんは、今日は念のため早退させるから教室からかばんを持って来てもらってもいい? 担任の先生には私から話しておくから」

 僕は、何もしてあげられない。

 苦しむ水戸さんを、見守ることしかできない。

「あ、はい……分かりました」

 何にもできない無力な人間だ。

「日和くん、ごめんね」

 なんで水戸さんが謝るの。

 謝るのは、僕の方だ。

「……ううん、僕の方こそ」

 ──ごめん、と言えなかった。

 水戸さんの表情を見ていたら、言葉が出てこなかった。

 それから僕は、保健室のドアを静かに閉めた。けれど、水戸さんのことが心配で動けずにいると。

「水戸さん、あなたまた無理をしたのね。身体が普通じゃないってこともう知ってるでしょ」
「それは……」
「あなたの身体には限界が近づいているのよ」

 先生と水戸さんの会話が聞こえてくる。

「今も貧血って答えたけど、そろそろ隠し通すのにも無理があるわ」

 ……やっぱり先生は、ほんとのことを知ってるんだ。

「あなたは普通の生活ができなくなってきてるの。今のままの生活を続けたら余命はもっと短くなってしまうのよ」

 ……余命よりも、短く?

 それってつまり──…

「病院ならちゃんとした治療もできるし、今よりも痛みだって少なくなる。そうしたらもっともっと長く過ごすことだってできるのよ。どちらがいいかなんて聞かなくても分かるでしょ」

 病院で治療をしてもらえば、水戸さんの症状も軽くなるだろうし、こんなに苦しむことはないはずだ。

「それは……理解してるつもりです」

 それなのにどうして水戸さんは、無理をしてまで学校に通い続けるのだろう。

「それなら……」
「でも私、今を生きたいんです」

 ドア一枚隔てた向こう側で、水戸さんの小さくて、けれど力強い声が聞こえる。