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「なぁ、昨日河川敷で牧野が水戸さんといるところ見たんだけど、何してたの?」

 朝、学校へつけば教室の中はそんな話題で持ちきりだった。そのせいで水戸さんの周りには、いつも以上に人で溢れていた。

 そうだ。河川敷でそんなことをしていたら、クラスメイトに見られるのは容易に理解できたはずなのに、すっかり忘れていた。

 水戸さんに迷惑をかけることになってしまった。なんとかして助けなきゃ。

「お、牧野ちょうどいいところに!」

 僕に気がついたクラスメイトの視線は、一斉に僕の周りに集まる。まるで野次馬のようだ。

「お前、昨日河川敷で水戸さんと一緒にいなかった?」

 ここでいなかったと答えたとしても、彼らは納得してくれないだろう。

 だったらここは素直に。

「いたよ」

 肯定した方がいい。

 そんな僕を心配そうに、おろおろと狼狽える水戸さんが視界に映り込む。どうやら僕が〝病気〟のことを言ってしまわないか気にしているのかもしれない。

 安心して、水戸さん。僕はちゃんと約束を守るから。

「なんでお前が一緒にいるんだよ」

 このときの僕は、少し冷静だった。

「ちょっと僕の無くし物を探すの手伝ってもらってただけ」

 いつも自信がなくて、弱くて、目立たない人間なのに。水戸さんのことになると、どうやら僕は強くなるみたいだ。

「探してるとき偶然、そこに水戸さんが通りかかって。優しい水戸さんが声をかけてくれたんだ。だからみんなが思っているようなことはなにひとつないから」

 嘘がするすると口からこぼれ落ちる。

 みんな僕の言葉を聞いて、『なんだよ』『まーそうだよな、牧野だし』と納得しだす。

「もう行ってもいい?」

 寄ってたかって集まられるのは居心地が悪い。僕は早くここから逃げたかった。先頭にいた釘崎くんが「お、おお」と返事をするから、それを聞いた僕は机にかばんだけを置くと、教室を出た。

 べつにクラスメイトは悪い人たちではないと思う。ただ、水戸さんが人気者なだけに僕がそばにいると納得できないらしい。


 ***


 休み時間のたびに水戸さんは僕を気にして何度か声をかけようとしていたが、また僕たちが一緒にいたらクラスメイトは怪しむだろうからと僕は、なるべく水戸さんに距離を取った。

「日和くんっ!」

 お昼休み、購買で飲み物を買った帰り水戸さんに声をかけられる。

「ど、どうしたの?」
「朝のことなんだけど……!」

 水戸さんがなにを言いたかったのか手にとるように分かった僕は、

「あ、あれはあー言ってた方が都合いいと思うし、それに……水戸さんには迷惑かけたくないから」