◇
その翌日から、水戸さんのやりたいことを達成するチャレンジが始まった。
放課後、二人して河川敷の芝の上を見つめること一時間。
「……あのさ、これ無理じゃ……ない?」
僕たちが何をしているのかと言うと、やりたいこと①の四つ葉のクローバーを見つけることだった。
「牧野くん、諦めるの早くない? 私のやりたいこと一緒にしてくれるんじゃなかったの」
水戸さんと話すようになって一ヶ月以上が過ぎた。段々としゃべることにも慣れて、今では目を見てしゃべれるまでになった。
「いや、それはもちろんするけどさ……探し始めて一時間だけど見つかる気配ないよね」
広い河川敷をあらかた探してみたけれど、三つ葉しかない。
「うーん、やっぱり無理なのかなぁ」
やりたいこと①がこれじゃあ他のができないんじゃないかと不安すら湧く。
「牧野くん、今日は……」
でも、言い出したのは僕だ。
「もう少し探してみる!」
僕が諦めてどうするんだ。
まだ一時間じゃないか。そんな弱音吐いてどうするんだ!
肘の下まで下がっていたシャツをまた捲り上げて、四つ葉のクローバーを探し始める。
──ポツッ
けれど、そんな気合いも虚しく空からは小さな雨粒が降り始めた。
「あっ、雨だ……」
なんでよりによってこんなときに雨なんて。
「ほんとだ……あっ、水戸さんは帰って大丈夫だよ。僕、もう少し探してみるから」
「で、でもそれじゃあ牧野くんが風邪ひいちゃう」
「僕は大丈夫だから──…」
こんな雨粒、どうってことない。そう思ったけれど、僕ではなく水戸さんはどうなる?
雨に濡れて身体が冷えてしまったら、それこそ身体に悪い。
「やっぱり今日は帰ろう」
慌てて立ち上がると、かばんの中からタオルを取り出して彼女に差し出した。
「え、牧野くん……?」
「か、風邪ひくといけないから」
「でも、牧野くんが」
「うん。僕は大丈夫だから」
無理やりタオルを広げると、彼女の頭にそれを被せた。
こんなときに傘を持っていてスマートに助けてあげられたらどんなによかったことだろうか。けれど、そんなこと考えても無意味で。
とにかく彼女が濡れないようにと、ぴったりとくっついて近くの公園に避難した。
***
それからも何日もかけて四つ葉のクローバーを探し続けた。けれど、なかなか見つからなくて時間だけが過ぎてゆく。
そんなことに苛立ちを感じていた。
「ないねぇ……」
「う、うん」
箇条書きされた数字は、まだ一番上。
ひとつもクリアできていなかった。
「やっぱりこれはやめようかなぁ」
水戸さんは、諦めモードになる。
けれど、僕は諦めたくない。