すると当然のように釘崎くんは、
「……へぇ、そーなんだ」
分かりやすくテンションが下がって怒りの矛先は僕へと向けられる。
ほら、やっぱり。すごく睨んでる。恨めしそうな顔して。すごく怖い。こういうのを理不尽って言うんだ。
「それでさ、牧野くんさっきの話の続きなんだけど──…」
ああ、これはやっぱり無理だ。僕には手に負えない。
「ごめんっ、用事思い出したから!」
慌てて席から立ち上がると、水戸さんも釘崎くんも少し驚いていた。
「ほんとに、ごめん……!」
けれど、これ以上、教室で目立ちたくなかった僕は、私情を優先して逃げた。
***
「ごめんなさい」
そして放課後。僕は、平謝りを続けていた。
これで何度目だろう。
「牧野くんが私がやりたいこと全部やろうって言ってくれたのに、逃げるなんてひどい」
どうやら水戸さんは、怒っているらしい。
普段は、温厚な彼女からは想像もつかないほどにむすっと頬を膨らませていた。もちろんそんな表情をしたって可愛いだけだ。
「あのときは釘崎くんもいたから聞けそうになかったし、それに釘崎くん……」
──水戸さんのこと好きみたいだから。
「釘崎くんがどうしたの?」
のどまで出かかった言葉を無理やり押し込めると、
「あ、いや、なんでもない……!」
全力で何事もなかったかのようにアピールする。
絶対に言えるはずない。
「と、とにかく、ほんとにごめん。僕が悪かったです。だから、その……」
許してほしいと懇願すると、クスッと笑い声が漏れるから、恐る恐る顔をあげる。
「私、怒ってないよ。だからもうそんなに謝らないで」
目の前の彼女は、いつものように穏やかだった。
「ほ、ほんとに……?」
「うん、ほんと」
どうやら怒っていたわけではないと知り、安堵した僕は体勢を整えてベンチに腰掛けた。
「それでね、牧野くんに言われて考えてみたんだけど」
さらさらと会話は流れていく。
水戸さんは、かばんの中から取り出したものを僕に手渡す。
「これは……」
ルーズリーフの中には、たくさんのやりたいことが①から⑩まで箇条書きしてあった。