「でも……でも……」
この足で、僕の前から歩いてみんなの元へ帰った。あのときの背中を見て僕は、彼女のことを支えたいと思った。
「僕は、思ったんだ。きみを……水戸さんを支えたいって」
顔を上げて、勇気を振り絞る。
僕の言葉を聞いて、困惑した水戸さんが小さく息を飲んだのが分かった。
たいしてしゃべってもいない僕にこんなことを言われるのは。
──拒絶されるだろうか。
──気持ち悪いって思われるだろうか。
けれど、そんなこと僕には関係ない。
これ以上、何を失うって言うんだ。
僕には、何も怖くないだろ。
「親に見限られて、親しい友達もいなくて、僕にはできることが何もないけど……でも、せめて……」
せめて、きみだけは。
「……水戸さんのことを支えてあげたいって、思うんだ!」
こんな僕が、図々しいことを言っているのは知っている。
何様なんだって思われるかもしれない。
余計なお世話だと思うかもしれない。
「水戸さんのことを救いたいんだ……!」
夕方の公園に、僕の声が響き渡る。
陽が沈み、あたり一面オレンジ色に染まり、地面に僕らの影が二つ映る。
──サアーっ。
おもむろに暑さを含む風が吹いた。
彼女は、何も言わない。
きゅっと唇を結んで、何も現れようとはしない。
「……ごめん、今の」
やっぱり自信がなくなった僕は、訂正しようと思った矢先。
「ありがとう、牧野くん」
震える声が、ひとつ落ちた。
顔をあげると、目の前に映った彼女の表情は、泣きそうな顔をして笑っていた。
「水戸さん……」
僕は、言葉に詰まる。
なんて言葉をかけてあげたらいいのか分からなくなった。
そんな僕に、
「まさか牧野くんにそんなふうに言ってもらえるなんて、思って…なかったから……」
彼女の目尻には、光る何かが見えた。
けれど、それを堪えるように唇をきゅっと結ぶから。
僕は、咄嗟に目を逸らす。
もしかしたら水戸さんは、泣いてるところを見られたくないのかもしれないと。
「ありがとう、牧野くん……」
少しくぐもった声が聞こえる。
「……うん」
僕は、目線だけを下げる。
今、できる気遣いがそれだけだったから。
人前で泣かないのは、水戸さんなりの強がりだったのかもしれない。
なんて思ったのは、このときだった。