「今日……もここに来たんだね」

 僕は、絶対にいないと思った。

 病気のことを知られたから、水戸さんこそ気まずいのだろうと。

 それなのに、彼女は。

「なんかね、牧野くんが私に話したいことがあるみたいだったから」

 突飛なことを告げられて、え、と困惑した声が漏れた。

「休み時間に目が合ったでしょ」
「え? あ、うん……」
「あのときね、牧野くんがなにか考えてるみたいだったから」

 ……じゃあ僕が見てたことに気がついたから、目を合わせたってことか。

「もしかしたら私のことかなって」

 ──全て水戸さんにお見通しみたいだ。

 それがたまらなく恥ずかしくなって、目線を足元へ落とす。

 何を話すかなんて決まってなかった。何も考えずにこの場所にやって来た。自然と身体が動いた。そこに理由なんてない。

 だから言葉は現れなくて、僕は黙り込む。

「この前、牧野くんにあんなこと話しちゃったせいだよね」

 そんな僕を気遣ってか、水戸さんがしゃべりだす。

「嘘がバレそうだったからって自分から言っちゃったけど、私、牧野くんのこと考えてなかったよね」

 紡がれる言葉に驚いて、弾けたように顔をあげると、

「ごめんね、牧野くん」

 笑顔だった顔が、少しだけ曇っていた。

 まるで太陽が雲間に入ったような表情を浮かべる水戸さん。

「なんで水戸さんが……」

 ごめんだなんて、謝るんだろう。

「だって、突然クラスメイトから病気のこと聞かされたら誰だって驚いちゃうよね。それにさ、あんなところ見ちゃったらなおさら……」

 〝あんなところ〟とは、木の影で苦しみに耐える水戸さんの姿。

 たしかに驚いたし、今でも信じられないけれど。間違いなくあれは、水戸さんで。

「心配かけちゃってごめんなさい」

 水戸さんは何も悪くない。

「忘れてっていうのは難しいかもしれないけど、気にしないでほしい」

 ──嘘ついてるんじゃないの、と彼女を追い込んだのは僕だ。

 無理して、僕のために笑わないでほしい。

「僕こそ、ごめん!」

 立ち上がって、彼女に向かって頭を下げた。

「え、牧野くん……?」

 きょとんとしたような気の抜けた声をもらす水戸さん。

「嘘ついてるんじゃないのって、デリカシーのないこと言って……言いたくもないこと打ち明けさせてしまって、ほんとにごめん……!」

 時間を戻すことができるなら、そんな無神経なことを言ってしまう前に戻りたい。

 なにも知らないままの自分に戻りたい。

 けれど、時間を戻すことなんてこの世界不可能で。

「何度謝っても足りないかもしれない……僕が、水戸さんを傷つけてしまったことに、変わりはないから……」

 謝る以外、言葉が見当たらなくて。

 視界に映ったのは、彼女の小さな足。