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 水戸さんに〝余命半年〟だと聞かされてから、どうすることもできずに時間だけが過ぎて行った。

 僕は、まだ半信半疑な部分もあった。

 いきなりそんなことを言われても理解できなかったからだ。が、あの日の水戸さんを見たら、あれが嘘だとはどうも思えなくて。やっぱり事実かもしれない……という答えにたどりつく。

「ねぇねぇ、小春ちゃん!」

 今日も水戸さんの周りには、たくさんの人だかりができていた。

 けれど、誰一人、病気であることは知らない。

 それを知っているのは、僕だけだ。

 僕だけが知っている。

 病気が、事実なのかは分からない。

 ──牧野くん。

 ふいに、誰かに呼ばれた気がして顔を上げた。
 その瞬間、真っ直ぐ僕を見ていた彼女の視線とぶつかって。

 どきっと胸が音をたてる。

「小春ちゃーん、どこ見てるのー?」

 慌てて、パッと視線を外す僕。

「んーん、なんでもなーい」

 弾んだような声が聞こえてくる。

 恐る恐る顔をあげると、僕から視線を戻して笑顔を浮かべながら友達と話していた。

 まるで病気など患っていないような、彼女の振る舞いに。胸がぎゅっと締め付けられる。

 僕だけが、彼女の苦しみを理解してあげられる。

 ──そのはずなのに、僕は何もしてあげられない。

 あのとき、水戸さんの弱々しくて、けれど力強い背中はたくましく見えた。

 〝支えてあげたい〟

 あの姿を思い浮かべると、僕は何かしてあげたいと思った。

 余命宣告された彼女に、なんて言葉をかけてあげられるのだろうか。気遣ってあげられるだろうか。

 何もできないかもしれない。

 けれど、何もなかったままにできない。

 知らなかった自分に戻ることは不可能で。

 だから、何かできることないか考えよう。

 少しでも、彼女の苦しみを和らげられるような。


 ***


 放課後、僕はまたコンビニへ行くと嘘をついて家を出た。行き先はもちろんあの公園。

 そこに水戸さんがいるとは限らない。

 けれど、学校で声をかけられない以上、校外で話せる場所はここしかなくて。

 恐る恐る公園の中を覗くと、

「──あっ」

 そこには、水戸さんの姿があった。

 あのときのような泣き顔ではなく。

「やっほ、牧野くん」

 いつものように明るくて眩しい笑顔だった。

 その姿を見て、ホッとする僕は、その場で立ち止まった。

 ……今日は泣いてない。よかった。

「牧野くん? 立ち止まってどうしたの?」
「あ、いや、べつに……」

 彼女のそばまで歩いて、少し距離を空けてベンチに腰掛けた。