◇
水戸さんに〝余命半年〟だと聞かされてから、どうすることもできずに時間だけが過ぎて行った。
僕は、まだ半信半疑な部分もあった。
いきなりそんなことを言われても理解できなかったからだ。が、あの日の水戸さんを見たら、あれが嘘だとはどうも思えなくて。やっぱり事実かもしれない……という答えにたどりつく。
「ねぇねぇ、小春ちゃん!」
今日も水戸さんの周りには、たくさんの人だかりができていた。
けれど、誰一人、病気であることは知らない。
それを知っているのは、僕だけだ。
僕だけが知っている。
病気が、事実なのかは分からない。
──牧野くん。
ふいに、誰かに呼ばれた気がして顔を上げた。
その瞬間、真っ直ぐ僕を見ていた彼女の視線とぶつかって。
どきっと胸が音をたてる。
「小春ちゃーん、どこ見てるのー?」
慌てて、パッと視線を外す僕。
「んーん、なんでもなーい」
弾んだような声が聞こえてくる。
恐る恐る顔をあげると、僕から視線を戻して笑顔を浮かべながら友達と話していた。
まるで病気など患っていないような、彼女の振る舞いに。胸がぎゅっと締め付けられる。
僕だけが、彼女の苦しみを理解してあげられる。
──そのはずなのに、僕は何もしてあげられない。
あのとき、水戸さんの弱々しくて、けれど力強い背中はたくましく見えた。
〝支えてあげたい〟
あの姿を思い浮かべると、僕は何かしてあげたいと思った。
余命宣告された彼女に、なんて言葉をかけてあげられるのだろうか。気遣ってあげられるだろうか。
何もできないかもしれない。
けれど、何もなかったままにできない。
知らなかった自分に戻ることは不可能で。
だから、何かできることないか考えよう。
少しでも、彼女の苦しみを和らげられるような。
***
放課後、僕はまたコンビニへ行くと嘘をついて家を出た。行き先はもちろんあの公園。
そこに水戸さんがいるとは限らない。
けれど、学校で声をかけられない以上、校外で話せる場所はここしかなくて。
恐る恐る公園の中を覗くと、
「──あっ」
そこには、水戸さんの姿があった。
あのときのような泣き顔ではなく。
「やっほ、牧野くん」
いつものように明るくて眩しい笑顔だった。
その姿を見て、ホッとする僕は、その場で立ち止まった。
……今日は泣いてない。よかった。
「牧野くん? 立ち止まってどうしたの?」
「あ、いや、べつに……」
彼女のそばまで歩いて、少し距離を空けてベンチに腰掛けた。