「……あのさ」

 聞かない方がいいのかもしれない。

 けれど、これを何もなかったみたいにすることは不可能で。

「水戸さん、僕に何か隠してない?」

 そう尋ねると、「え」と一瞬だけ動揺した水戸さん。その様子を僕は見逃さなかった。

「喘息って言ってたけど、胸……心臓を押さえてるように見えたし、それに苦しみ方が普通じゃなかったっていうか……」

 僕は、さっき見た一部始終を説明してゆく。

 中学時代、クラスに喘息持ちの人がいた。走ると苦しくなって息がヒューヒュー鳴るのを聞いたことがある。けれど、水戸さんの苦しみ方はそれとは並外れているようだった。

「それに水戸さんの手が、すごく冷たくて、顔も、すごく青ざめているから」

 触れられた手は、ひやりとしていた。

 冷え性であってもそんなにはならない。

 もしかしたら彼女は、僕に、嘘をついているのかもしれないと思った。

 けれど、なぜ彼女が僕に嘘をつく必要があるんだろう。

 水戸さんは、小さくフッと口元を緩めると、

「……牧野くんに、嘘はつけないなぁ」

 観念したように肩をすくめて、苦しそうに笑った。

 そうして、

「私ね……病気なの」

 予想外の言葉が彼女の口から現れて、え、と今度は僕が驚くはめになる。

「びょう、き……」
「うん。病気で、あまり長くは生きられないの」

 そして続け様に告げられた言葉にさらに驚いて、開いた口が塞がらない。

 ……病気で長くは生きられない?

 あんなに元気で明るくて、そんなふうに感じさせない水戸さんが?

「……嘘、だよね」

 動揺した僕の息のリズムは乱れる。

「ごめんね、これは嘘じゃないんだ」

 水戸さんは、それを肯定した。

「……じゃあ、喘息ってのは……」
「うん、病気を隠すための嘘なの」

 体育を休むのは、それだけ体調がよくないから。けれど、病気を知られたくなかった彼女は、それを喘息だと言っていたらしい。

「みんなにもひどいことしてると思う。でも、言えないの」

 みんなは、それを信じている。

 僕は、どうなんだろう。

 水戸さんの言葉が、まだ信じられない。

「病気でもうあまり長くはないってこと知られるのが怖いの……」

 震える声で紡がれるそれは、現実なのか。

「……長くないって」

 それとも夢なのか、曖昧になりそうになる。

 ザァっと吹きつけた風が、木々を揺らし、気持ちよさそうに宙を舞う葉っぱが、スローモーションのように見えて。

「──私の余命は、もって半年なんだって」

 僕は、頭を何かで殴られたような衝撃が走った気がした。