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かれこれ三十分以上、放課後の化学準備室で黙秘を貫いているわたしを、葛城先生が途方に暮れた顔で見つめる。
厄介なことを引き受けた。
絶対にそう思っているはずなのに、無言でそっぽ向く私に根気よく三十分も付き合ってくれるなんて。葛城先生も、なかなかのお人好しだ。
「どうしてちゃんと話さなかったんだ? そうすれば、余計な誤解を受けなくて済んだのに」
だけど、最終的に真面目な顔付で諭してきた葛城先生に、わたしは少し幻滅した。
今年の春からうちの学校に非常勤としてやってきた葛城那央先生。彼は、女子生徒たちから「那央くん」なんて呼ばれて、裏でやたらとモテている。
まだ二十代であるということや、高校の化学教師にしてはムダに整いすぎているように思われる顔面のせいもあるけれど、彼に好意を寄せる女子たちは、「那央くんは優しくて話しやすい」とか、「生徒目線で話を聞いてくれる」とか、熱っぽい目をしてそんな噂をしている。
たしかに、非常勤勤務で何の責任もない彼は、他の先生よりも親しみやすい。だけど、仮にも「先生」の立場にある以上、この人だって、完全に生徒の味方というわけではない。
「いいんです。誤解されてるほうが都合がいいから」
つっけんどんに言葉を返すと、葛城先生が困ったように視線を泳がせた。
「でも、な……」
首の後ろを撫でながら言葉を詰まらせる葛城先生のことを、ジッと見る。
男性だけど、綺麗な顔をした人だ。二重で切れ長の大きな目が顔全体のなかで特に印象的だし、鼻筋が高く通っていて顔立ちがはっきりしている。パーツの整った顔には、ややつり気味の眉がのっていて。それが、彼の綺麗な顔を引き締めて、男性らしい端正さを見せるのに一役買っている。
鑑賞するには最適。だけど、正直言ってそれだけ。