「うるせえ……」
翌朝。哲也を思わせるベルが、家中に鳴り響いた。宅配便午前中指定だとしても早過ぎる時間帯。俺は布団を頭まで被る。
寄るのを忘れたと言われたあの日から、哲也は俺の家に一切来ていない。しかも今日は練習試合だ。とっくに体育館へ着いている頃。
鼓膜を両指で塞ぎ眠り入ることへ全力を注いでいると、ガバッと布団を剥がされた。
「修斗、お団子の子が来てるわよ!」
その瞬間、あの日あの時を思い出す。
扉を開けた先にはやはり、眩い朝陽と彼女の姿。胸がドクンと1度、強く打つ。
「修斗行くよ!早く準備して!」
「え、ど、どこに」
「体育館に決まってるじゃん!もう試合始まってるよ!」
あれだけ行かないと告げたのに、メールに返信もしていないのに。どうして彼女はいつも、俺の引力に逆らうのだろう。
「い、いやいや行かねえよっ」
「行くの!」
「行かないっ」
「いいから!」
「うるせぇな、行かねぇっつってんだろ!」
ドカッとその場で胡座をかけば、真那花は黙った。代わりに後ろから、母の声。
「どうしたのよ、喧嘩?」
不安げに様子をうかがってくる母へ、真っ先に話しかけたのは真那花だった。
「修斗くんのお母さんっ」
「なぁに?」
「お母さんは、修斗くんのバスケしてる姿好きですよね?」
「え?ええ、もちろん」
「じゃあもし……もしも修斗くんがバスケを辞めたらどう思いますか」
出し抜けなその問いに、俺は真那花を思わず睨んだ。彼女はそんな俺を束の間見るが、すぐに母へと目を向けた。
「修斗がバスケを辞めたら、か。そうねぇ……」
すんなりと答えが出ない母に、嫌な妄想が広がっていく。
それはそれでお金がかからなくていいわね、などと言われたら、自分はへこむと知っているから。
やたらと長い1秒2秒が過ぎ去って、母が言う。
「説得しちゃうかもね。辞めないでって」
自分の瞳孔が、開くさまがわかった。
「だって私、修斗のバスケしてる姿、ほんっとーに好きなんだもの」
こんなにも嬉しいことを言われているのに、俺は恐る恐る母を見た。視線が合えば、彼女は微笑む。
「私ね、修斗が試合で勝つとそれから何日もふわふわしちゃうのよ。嬉しくて嬉しくてたまらない。負けた時なんかそれ以上に引きずっちゃうし。もー青春ね、青春!この歳にして、青い春見つけちゃったわ」
恥ずかしそうに、口元に手をあてた母。
「だから、修斗が考えて選んだ道なら仕方ないけれど、辞めるって言われたらショックは隠せないわ。私も修斗のファン辞めなきゃいけないのかあって、悲しいなあって。あれ、ところでなんでこんな質問したの?」
母の回答に満足した様子の真那花は、俺に向かって「ほら」と不敵な笑みを寄越す。
母へ視線を戻し、彼女は言う。
「今日練習試合なんです。修斗くんのバスケ部」
その事実に、「ええ!」と驚くのは母。玄関脇の時計を見て、俺の頭をパシンとぶつ。
「あんた間に合うの!?」
「ま、間に合わねえよっ。もう始まってるし」
「はー!?じゃあとっとと用意して行きなさいよ!私もお父さん連れて応援行くから!」
「いいよそんなんっ」
「いいから早く準備しなさい!」
ガンッと鍵盤を踏み潰したような声で俺を怒鳴ったくせに、真那花へは高い声で「見苦しくてごめんね」と言った母だった。
翌朝。哲也を思わせるベルが、家中に鳴り響いた。宅配便午前中指定だとしても早過ぎる時間帯。俺は布団を頭まで被る。
寄るのを忘れたと言われたあの日から、哲也は俺の家に一切来ていない。しかも今日は練習試合だ。とっくに体育館へ着いている頃。
鼓膜を両指で塞ぎ眠り入ることへ全力を注いでいると、ガバッと布団を剥がされた。
「修斗、お団子の子が来てるわよ!」
その瞬間、あの日あの時を思い出す。
扉を開けた先にはやはり、眩い朝陽と彼女の姿。胸がドクンと1度、強く打つ。
「修斗行くよ!早く準備して!」
「え、ど、どこに」
「体育館に決まってるじゃん!もう試合始まってるよ!」
あれだけ行かないと告げたのに、メールに返信もしていないのに。どうして彼女はいつも、俺の引力に逆らうのだろう。
「い、いやいや行かねえよっ」
「行くの!」
「行かないっ」
「いいから!」
「うるせぇな、行かねぇっつってんだろ!」
ドカッとその場で胡座をかけば、真那花は黙った。代わりに後ろから、母の声。
「どうしたのよ、喧嘩?」
不安げに様子をうかがってくる母へ、真っ先に話しかけたのは真那花だった。
「修斗くんのお母さんっ」
「なぁに?」
「お母さんは、修斗くんのバスケしてる姿好きですよね?」
「え?ええ、もちろん」
「じゃあもし……もしも修斗くんがバスケを辞めたらどう思いますか」
出し抜けなその問いに、俺は真那花を思わず睨んだ。彼女はそんな俺を束の間見るが、すぐに母へと目を向けた。
「修斗がバスケを辞めたら、か。そうねぇ……」
すんなりと答えが出ない母に、嫌な妄想が広がっていく。
それはそれでお金がかからなくていいわね、などと言われたら、自分はへこむと知っているから。
やたらと長い1秒2秒が過ぎ去って、母が言う。
「説得しちゃうかもね。辞めないでって」
自分の瞳孔が、開くさまがわかった。
「だって私、修斗のバスケしてる姿、ほんっとーに好きなんだもの」
こんなにも嬉しいことを言われているのに、俺は恐る恐る母を見た。視線が合えば、彼女は微笑む。
「私ね、修斗が試合で勝つとそれから何日もふわふわしちゃうのよ。嬉しくて嬉しくてたまらない。負けた時なんかそれ以上に引きずっちゃうし。もー青春ね、青春!この歳にして、青い春見つけちゃったわ」
恥ずかしそうに、口元に手をあてた母。
「だから、修斗が考えて選んだ道なら仕方ないけれど、辞めるって言われたらショックは隠せないわ。私も修斗のファン辞めなきゃいけないのかあって、悲しいなあって。あれ、ところでなんでこんな質問したの?」
母の回答に満足した様子の真那花は、俺に向かって「ほら」と不敵な笑みを寄越す。
母へ視線を戻し、彼女は言う。
「今日練習試合なんです。修斗くんのバスケ部」
その事実に、「ええ!」と驚くのは母。玄関脇の時計を見て、俺の頭をパシンとぶつ。
「あんた間に合うの!?」
「ま、間に合わねえよっ。もう始まってるし」
「はー!?じゃあとっとと用意して行きなさいよ!私もお父さん連れて応援行くから!」
「いいよそんなんっ」
「いいから早く準備しなさい!」
ガンッと鍵盤を踏み潰したような声で俺を怒鳴ったくせに、真那花へは高い声で「見苦しくてごめんね」と言った母だった。