「修斗そろそろ起きなさい!もうすぐ哲也くん来るわよ!」
「んー……」

 哲也の家から駅までの道に、俺の家はある。だから試合だろうが学校だろうが何時だろうが、哲也は必ず俺をピックアップしていく。

 母が働き始めてからの朝は少し変わった。

「今日お母さん帰り遅くなると思うから、冷蔵庫にあるお豆腐と麻婆の素で適当に食べちゃっててもいいからね。部活の後はお腹が空いて待ち切れないでしょう」
「うん、わかった」
「トースト食べ終わったらシンクにお皿だけ置いといて。帰ったら洗うから」
「いーよ、そのくらい俺やるよ」

 パタパタパタパタと、スリッパの音は忙しい。

「遅いわねぇ哲也くん。いつもはもう来てる時間なのに」

 待ち合わせをしているわけではないが、哲也は高校に入学したその日から毎日俺の家に寄っているから、今日も自然と彼を待ってしまう自分がいた。

「寝坊じゃね?」
「まさか。修斗じゃあるまいし」

 頼みもしないのにベルを鳴らし、俺に元気を分けてくれる哲也。それが朝の苦手な俺の電源ボタンなのに。

「遅刻しちゃうわ、もう行きなさい」

 今日初めて、そのボタンは押されなかった。