今日はもう帰ろう。布団に入って寝て、バスケの夢を見るんだ。全国大会でトロフィーを掲げる仲間との幸せな夢を。
「修斗待てよ!待てってば!」
哲也の声に耳を閉ざし、校門に差しかかった時だった。
「コ、コーチ……」
中川原と出会してしまったのは。
「お、お疲れ様ですっ……」
目も合わせずすれ違おうとした俺を、彼は大きな胸板で引き止めた。
「花奏、どこへ行く。もう練習は始まっているぞ」
いつもより低い声を用いるくせに、妙に穏やかな口調が不気味だった。
「きょ、今日は帰りますっ」
「何故だ」
「ち、父の店の手伝いがあって……」
「花奏の父さんなら、昨日学校に連絡があったぞ」
「え?」
「最近息子の帰りが遅いが、部活の時間が延びたんですかってな」
父とはあの1件を機に気まずくなり、会話をしていない。花屋のバイトの日も彼は俺よりも早く帰宅をしているから、急な帰宅時刻の変わりように疑問を持ってもおかしくはない。だとしても、そんなことは息子の俺に直接聞いて欲しいと思った。
苛立った俺は、「あの」や「えーと」を繰り返すだけの壊れたロボット。中川原はそんな俺に、1歩近付いた。
「花奏。サボるならもっと上手くサボれ。嘘はいかんな、嘘は」
ナイフで心を抉られて、抜けなくなる。
「う、嘘じゃないですっ!本当に、本当に父の店はっ」
「言い訳なんていらん」
虫でもはらうかのように、彼は俺の前で手を振った。
「花奏、金輪際部活には来なくていい。バスケは辞めろ。俺はフェイントは好きだが嘘は好かん、むしろ嫌いだ」
厳しい目つきで微笑む彼。ぞっとした。
「実は今度、練習試合が決まってな。月仲中の横井って奴がいる慶明高校とだ。横井のことは知ってるよな?県内どころじゃなく、全国でも有名になりつつある人間だ。お前と横井の対戦をせっかく楽しみにしていたんだが、普段の練習をサボる奴にユニフォームは渡せん。お前は他で遊んでろ」
そう言い終えて、俺の真横を過ぎ去る中川原。寸刻固まってからおもむろに振り返ると、そこには小さくなっていく彼の背中と、青ざめた哲也が見えた。
「修斗、親父さんのこと嘘だったの……?」
犯罪者の次は裏切り者。弁解したいと思い叫んだ。
「違う!違うんだ哲也!」
彼に駆け寄ろうと1歩を踏み出すが、それは中川原が許さない。
「部外者はとっとと出てけ!バスケ部員の邪魔をするな!」
哲也は俺と中川原を何度か見て、最後に俺から視線を逸らす。
「て、哲也!」
皆が待つ大きな箱に消えていく哲也とは、もう2度と会えないような気になった。
「修斗待てよ!待てってば!」
哲也の声に耳を閉ざし、校門に差しかかった時だった。
「コ、コーチ……」
中川原と出会してしまったのは。
「お、お疲れ様ですっ……」
目も合わせずすれ違おうとした俺を、彼は大きな胸板で引き止めた。
「花奏、どこへ行く。もう練習は始まっているぞ」
いつもより低い声を用いるくせに、妙に穏やかな口調が不気味だった。
「きょ、今日は帰りますっ」
「何故だ」
「ち、父の店の手伝いがあって……」
「花奏の父さんなら、昨日学校に連絡があったぞ」
「え?」
「最近息子の帰りが遅いが、部活の時間が延びたんですかってな」
父とはあの1件を機に気まずくなり、会話をしていない。花屋のバイトの日も彼は俺よりも早く帰宅をしているから、急な帰宅時刻の変わりように疑問を持ってもおかしくはない。だとしても、そんなことは息子の俺に直接聞いて欲しいと思った。
苛立った俺は、「あの」や「えーと」を繰り返すだけの壊れたロボット。中川原はそんな俺に、1歩近付いた。
「花奏。サボるならもっと上手くサボれ。嘘はいかんな、嘘は」
ナイフで心を抉られて、抜けなくなる。
「う、嘘じゃないですっ!本当に、本当に父の店はっ」
「言い訳なんていらん」
虫でもはらうかのように、彼は俺の前で手を振った。
「花奏、金輪際部活には来なくていい。バスケは辞めろ。俺はフェイントは好きだが嘘は好かん、むしろ嫌いだ」
厳しい目つきで微笑む彼。ぞっとした。
「実は今度、練習試合が決まってな。月仲中の横井って奴がいる慶明高校とだ。横井のことは知ってるよな?県内どころじゃなく、全国でも有名になりつつある人間だ。お前と横井の対戦をせっかく楽しみにしていたんだが、普段の練習をサボる奴にユニフォームは渡せん。お前は他で遊んでろ」
そう言い終えて、俺の真横を過ぎ去る中川原。寸刻固まってからおもむろに振り返ると、そこには小さくなっていく彼の背中と、青ざめた哲也が見えた。
「修斗、親父さんのこと嘘だったの……?」
犯罪者の次は裏切り者。弁解したいと思い叫んだ。
「違う!違うんだ哲也!」
彼に駆け寄ろうと1歩を踏み出すが、それは中川原が許さない。
「部外者はとっとと出てけ!バスケ部員の邪魔をするな!」
哲也は俺と中川原を何度か見て、最後に俺から視線を逸らす。
「て、哲也!」
皆が待つ大きな箱に消えていく哲也とは、もう2度と会えないような気になった。