「バッシュ欲しくってさ。バイトしてんの」

 観念した俺は、真実を告げた。

「足がもう限界で、思うようにプレーできなくって。とにかくいてえし」

 真那花は小さく「そっか」と言った。

「1万円…って言ったっけ」
「おう。そんくらい」
「じゃあ1万円稼いだら、すぐにバイト辞めるの?」
「うーん。本音ではそうしたいけど、1か月で契約したからその間は働くよ。さすがに『目標金額いったんで辞めまーす』なんて、身勝手言えないだろ?」

 静かな公園に、真那花の長い唸り声が響く。

「誰にも、本当のことは言ってないの……?」
「言ってない。とりあえずは父さんの体調不良で家の店手伝ってるていにしてる」
「どうして?」

 うちは貧乏なので、自分で稼がなくてはバッシュのひとつも買えないんです。そんなこと、言う気になれない。

「言えないよ」
「なんで?」
「俺が恥ずかしいっていう気持ちももちろんあると思うんだけど、親が可哀想かなとも思う。親も貧乏になりたくてなったわけじゃないしさ。母さんたちが誰にも言ってないことを、俺が他人に言うのってどうよ?って。あ、でも真那花には言っちゃってるな、他人なのに」

 最後のひとことが引っかかったのか、真那花が「他人?」と語尾を上げて反復する。傷付いた表情に胸が締め付けられたが、突き放すならば今しかないとも感じてしまった。

「他人じゃねぇの?他人だろ」

 そう言うと、彼女の瞳がくわっと見開く。

「なん、で……?」

 腿の上に乗せられていた彼女の手はぷるぷると震え出し、グーのかたちになった。

「私が修斗のこと好きなの、知ってるよねぇ?修斗は私に、キスしてくれたよね?他人ならどうしてキスなんてしたの?すっごく嬉しかったのに……」

 その手にぽつんと雫が落ちて、罪の意識に苛まれていく。

「私たち付き合えないの?恋人になれないの?私はこんなに修斗のこと好きなのにっ」

 今すぐ真那花を抱き寄せて、愛してるよってキスがしたい。けれど俺は、あいつを裏切りたくはない。
 喉のすぐそこまで上がってきた彼女への愛を懸命に飲み込んで、俺は息を吸った。