心が興奮している時、身体の痛みは気にならない。心が病んでいる時もまた、そうなんだな。

「まあ、なにから話そうか」

 甲斐田先輩たちの引退試合を彷彿(ほうふつ)させるのは、切実に守ってきた蝋燭(ろうそく)の火が消えた時の、中川原の物憂げな瞳。

「そうだなぁ、流羽武校はあっぱれだったなぁ……」

 何度も頷きながら、皆を見渡す。俺はそんな中川原を()の当たりにすると、ひとつのシーズンが終わったのだと痛感してしまう。

 崎蘭高校校庭傍。1月の3連休最終日の昼下がり。楽しい旅行から舞い戻るにはまだ早い時刻。雀は電線の上、ピピピと(つがい)をデートに誘う。

「く、悔しいな……」

 こんな日に、震える声はそぐわない。

「悔しいよなぁ!」

 中川原のその言葉は、素直に自分の気持ちを吐き出せない年頃の男子高校生の思いを代弁してくれている気がした。

「俺は、悔しい気持ちでいっぱいだ!絶対勝ちたかった!まだまだ試合がしたかった!」

 また湧き出てくる涙の粒。俺は空を見上げた。
 青空の中、心地良さげに浮かぶ雲。俺があの雲と同じ気持ちになれるのは、まだまだ時間がかかる。だけどこの未練が糧になると信じている。

「明日からまた、気持ちを切り替えて前に進もう。今日はよく寝ろ」

 最後、そう締め括った中川原に頭を下げて、崎蘭高校バスケ部の新人戦は終わった。