足の指には心臓がある。そう思えるほど、痛みがドクドクと打っていた。

「これで6対21だぁ!!」

 華やぐ歓声は、流羽武校のベンチから。難なく哲也を(かわ)しゴールを決めた5番日高(ひだか)は、2階席へ投げキッスなんぞをしていた。
 奮闘する皆の汗でコートのコンディションが最悪なのか、俺の足が使い物にならないのか。掴みづらくなっていくフィールドに俺は悶える。

「花奏!抑えろ!」

 つい先ほどのタイムアウトで中川原が指示したのは、オールコートのディフェンスだ。疲れるし嫌だと思うけれど、正しい判断だとも思う。何故ならばガラ空きな半面から、何度攻撃を受けたかわからないから。

「はあっ……くっ…はぁっ…」

 今はまだ、第1クオーター。それなのにこんなにも体力がエンプティーに迫るなんて、予想だにしていなかった。

「うぁあっ!!」

 右に。

「……くっ!」

 左に。

「んぐッ…!」

 縦に振られ、もう限界。息切れに溜め息も含まれて、低酸素状態もいいとこだ。

「カバーだ!斎藤!」

 またもや俺が葛羅に抜かれると、中川原は哲也に縋った。哲也は彼の命ずる通り、葛羅の前で壁を作る。途端に会場に溢れるはふたりの名。俺がそれを奇怪に思えたのは、彼等以外を誰も見ていないのだと感じたから。
 ドラマならば、今このシーンは間違いなくそのふたりが主役だろう。ふたりへ注がれる視聴率は高い。しかし本当に注視しなければならないのは、まわりの動きなんだ。

「ま、学武!スクリーンが!!」

 哲也という看守が不在になった日高は、学武の動きを封じ込めた。不意打ちをつかれた彼は行き場を失い、同時にフリーとなるのは彼がマークしていた木梨。
 リング真下の彼へ放られるパス。それを彼が受け取ればネットは揺れた。全ては数秒の出来事だった。

 6対23。雲泥(うんでい)の差を、見せつけられる。