「崎っ蘭!!崎っ蘭!!」

 応援席は、我が校名のコールでわく。4対0のスタートは、そこにいる誰をも興奮させた。甲斐田先輩たちですら夢で終わった関東大会。そこへ行けるかもしれないと思えば、血湧き肉躍る。

「俺等崎蘭が勝つぞ!」
「おう!!」

 流れは完璧に、崎蘭高校。必ず勝ってやると、神へ誓った。

「1本!!」

 すでに肩で息をしているのは流羽武校の皆。負けていると余計に疲れる。正しくその状態だ。

 ボールを所持し、徐々に俺等が守るコート半面へと近付く葛羅。今大会、崎蘭校のディフェンスはハーフコートが多い。それもデータとして、流羽武校は得ているだろう。だから俺は警戒せねばと考えていた。ディフェンスのいないガラガラなそこで、彼等が仕掛けてくることを。

 ビュンッと残り1本のボーリングのピンを倒すように狙いを定められたパスが、俺の肩を抜けていく。しまったと思ったのは、7番八雲(やくも)がフリーになるのが横目で見えたから。

「7番だ!」

 俺のその声に、学武と大林がカバーに入る。
 まずい、味方のその行動は計算外。190センチ超えの八雲を注意せねばといっても、流羽武校の平均身長そのものが高い。ゴール近辺でそんな輩をふたりも野放しにしてしまっては、彼等にとっては好都合だ。
 フロアから足を離した八雲は、頭上で構えたボールと共に空中へ。6番木梨(きなし)と8番堀田(ほった)が声を揃えて彼を呼ぶ。

「へい!八雲!」

 右と左。真逆のサイドにいるふたり。八雲の心情はわからぬが、木梨の付近には哲也がいるということだけで、俺は堀田へと駆けて寄る。

「あぁ!?」

 そんな俺に気付いた八雲が、彼の最高頂点で、俺を見下ろしそう言った。彼が俺の存在を把握したということは、彼が堀田方面へと視線を向けていた証。
 躍動するのは胸の中。カットできるとジャッジを下す。
 
 精神統一、射石飲羽(しゃせきいんう)。この一瞬の機会を失いたくない、(のが)さない。ボールは必ず俺の手に。

 そんな浮かれた心が粉砕したのは、八雲の頭の上にあったボールが、彼の後ろへとノールックで捨てられたから。いや、捨てるなんてあり得ない。彼は俺を視界に捉えた瞬間に気付いたんだ。俺がマークしていた人間が、自由になったと。
 ダンッと1度跳ねたボールが、葛羅の元へと渡っていった。リラックスモードの彼がバックステップをきったのは、加点を狙ったから。
 スパッと華麗に決まったシュートに相手側は大喜び。流羽武校のスコアは、いっぺんに3枚捲られた。