直ちにコートへボールを戻す流羽武校。ラグビー選手のように疾走する葛羅は、そこら辺の陸上部よりも速く感じた。
 ドリブルをつきながらのこのスピード。ボールはまるで3本目の足。そうかと思えば。

「くっ……!」

 一気に左右の動きを取り入れ、ディフェンスの俺を弄ぶ。キュッキュッとフロアを鳴らせばその分、貫く激痛。
 痛い、痛い、すごく痛い。だけどそんなものは。

「気にしてられっか!」

 強い感情が空気に触れると、葛羅がぽかんと呆気に取られた。作戦ではなかったが、そのお陰でボールは奪えた。

「こら葛羅ぁ!!」

 流羽武校のコーチにどやされて、葛羅の眉間に皺が寄る。しかし彼は陸上部よりも陸上選手。(えもの)へ追いつくのに時間は要さない。

 一騎討ちの中、()めろと圧する流羽武校ベンチ。行けと背を押す崎蘭校ベンチ。それにプラスされる大歓声。自分のドリブルですらどんなビートを刻んでいるのか曖昧になりながらもリングだけを目指していたその時、ダダダと誰かが駆けてきた。その音を一時(ひととき)聞けば誰だとわかるのは、彼とは中学1年生からの5年間、ほぼ毎年365日を共有してきたからだ。
 ノイズとは程遠い素直なサウンドは、ディフェンスに邪魔されることなく、真っ直ぐこちらに来ている証拠。
 だから俺は、キュイとブレーキをかけてリングを見上げた。無論、シュートだと思った葛羅も足を止めて阻止する動作。

 俺の後ろにはあいつがいる。そんな自信が確信に変わったのは次の瞬間。

 飛んだ俺は、胸から背へと素早くボールを這わせていく。胸元のボールが突如消えたのだから、葛羅は「は?」と怪訝な顔。これがパスだと彼が気付くのは、もうすぐだ。
 背面で待つボールをふわりと受け取った哲也は、俺の真横の風を切る。俺につられてジャンプをしていた葛羅はもう、目で追うことしかできずにいた。
 彼の着地とほぼ同時、舞うは哲也。俺から見ても惚れてしまうダンクに近いシュートを赤裸々に決めて、会場内を痺れさせていた。

「よっしゃあ!」

 天高く彼がガッツポーズをすればそこには、ミラーボールを砕いたような汗が降り注ぐ。