地元の駅に着く頃、空は鮮やかなオレンジ色。明日もきっと良い天気だ。
 長く伸びた影だけを見れば、それはいつもと変わらない哲也と俺。しかしその持ち主ふたりの足取りは重い。

「修斗、大丈夫?」
「だいじょばない」
「どこ痛い?」
「足、腰、背中、首」
「爺さんじゃん……」

 こんな身体で毎日過ごしているのかと思うと、老人を尊敬した。

「まじで隆宗のやつ、バスケ辞めて欲しいわ。もう2度とやりたくねぇ」

 そう言い、自身の影をダンッと踏みつける哲也を見て俺も真似しようと思ったが、今の俺の足は労わらねばならないのだと気付き、やめておいた。
 今日もたくさんのステップをきり、ターン、ダッシュに敢闘(かんとう)してくれた足が、狭いシューズの中で悲鳴をあげる。早急に対処法を考えないと、どんどん悪化する一方だ。
 バッシュ買って。早く言わないと。

「修斗ー!哲ちゃんー!」

 ふと聞こえてきた声と共に、影が3つに増えた。弾んだ声で返すは哲也。

「おお真那花、今帰り?」
「うん。会場校の最寄り駅で美味しそうなパン屋さん見つけてさ、イートインで食べてたらこんな時間」
「あはは。中川原の話くらい長いじゃん」

 蜜月(みつげつ)に見えた彼等を前に自分の居場所を失った気がして、俺はふたりに手を振った。

「じゃあな、俺先帰るわ」

 しかしそれを止めるは真那花。

「なんで?方向一緒だし、3人で帰ろうよ」
「やだ」
「はー?」
「じゃな」
「ちょっと修斗っ」

 ()せぬ顔をした彼女が、俺の服を引っ張ろうとした時だった。

「哲ちゃん……?」

 哲也が真那花と手を繋いだのは。
 ざわっと吹いた嫌な風。俺の中にまで侵入して、掻き乱す。

「じゃあな修斗、また明日迎えに行くから」

 紳士のような哲也にそう言われ、俺も必死に口角を上げた。

「おう、またな」

 ふたりに背を向け歩き出せば、影がたったのひとつになった。寂しそうなそれを見て思う。昨日のキスも今日のキスも、なかったことにはできないのだろうかと。何故なら俺は中学1年生のあの日、心に誓ったことがある。大切な友人の恋を応援する。それは常に、俺の真ん中に。