「白4番!アンスポーツマンライクファウル!」

 スポーツマンらしくないファウル、という意味のファウルをとった審判がオフィシャルテーブルで何かを確認している最中、仲間の4人が俺の元へと駆け寄った。

「修斗、大丈夫か!?」
「立てるか!?」
「あいつなんだよまじで!」
「修斗!」

 項垂れたままに目だけをぎょろりと動かせば、哲也たちの隙間から隆宗の顔が見えてしまい、俺の理性が吹っ飛んだ。

「おいこら……」

 おもむろに立ち上がった俺は、舞台をガンと1発蹴って唾を吐く。目の前に見えた哲也の肩をぐいと退かして敵へと歩んだ。

「ふざけんなテメエ!喧嘩すんのかこらあ!上等じゃねえか!」

 利き手で作った拳を携えずんずん彼へと進んで行くが、それは味方によって止められた。

「やめろ修斗!落ち着け!」

 今の俺は自分を正しいと思ってしまっているから、制止した彼等にも腹が立つ。

「やめろよ!あいつがわりーんだろうが!」
「相手にすんな!奴は狂ってる!」
「だからなんだってんだよ!」
「お前までファウルもらうぞっ、やめろ!」

 右腕も左腕も鷲掴まれて、隆宗を殴れないもどかしさに鬱憤(うっぷん)が溜まっていく。中指を立てて、挑発をした。

「ほらテメエからこいよ隆宗ぇ!望み通り喧嘩してやんよ!」
「修斗!まじでやめろ!」

 野生の虎と化けた俺は、真那花が会場にいることも忘れて取り乱した。隆宗を殴りたい。脳にはそれだけ。
 そんな俺をどうにか人間へ戻してくれたのは、審判だった。

「白4!パーソナルファウル4回にアンスポーツマンライクファウル1回で計5回!退場!」

 暴れまくっていた隆宗のファウルは今ので5回に到達したようで、退場を言い渡された彼が青ざめる。大事な一戦でのキャプテン離脱。少しは負い目を感じた方がいいと思った。

 戦意喪失した途端、電流の如く一気に背中へ走った疼痛(とうつう)。その場に崩れ落ちるとすぐに、中川原がこう言った。

「交代!」


 痛覚など存在しなければいいのに。そうすれば今、俺がベンチで座っていることはない。

「花奏、今日は災難だったな。あとは仲間を信じよう」

 俺の隣、中川原はそう言った。信じている信じていないではなくて、俺はバスケがしたいんだ。

 51対35で、明日への橋を架けてくれた崎蘭校の仲間たち。決勝トーナメントへの扉の向こう、俺はそこでコートへ戻ると決めた。